1992 年 29 巻 1 号 p. 35-41
非ふるえ熱産生 (NST) は寒冷馴化により促進され, 絶食により抑制されることが知られている.本実験ではNSTの主要部位である褐色脂肪組織 (BAT) のin vitro熱産生能における絶食 (48時間) の影響について寒冷馴化 (5℃, 4週間) および温暖馴化 (25℃) ラットを用いて検討した.BATの組織片を用いて基礎酸素消費量とノルアドレナリン (NA) , グルカゴンに対する反応を直接測定し熱産生能の指標とした.絶食により温暖馴化群 (WC) , 寒冷馴化群 (CA) ともに体重は減少した.またCAでは単位体重あたりBAT組織重量および脂質含量が減少したが, WCでは変化がなかった.CAにおける組織総重量あたりの基礎組織酸素消費量は絶食により低下していたが, WCでは変化がなかった.組織総重量あたりのNA, グルカゴンに対する反応 (基礎組織酸素消費量からの増加量) はCAでは絶食により抑制されていた.一方WCにおいてはグルカゴンに対する反応は抑制されていたが, NAに対する反応には変化がなかった.これらの結果から, 代謝が亢進しエネルギー基質が減少しているCAでは, 絶食時にBATにおけるNA, グルカゴンに対する反応性を低下させてNSTを減少させ, エネルギー基質を保持させることが重要であると推測される.