2022 年 74 巻 3 号 p. 277-282
「人と人工物との関係」はしばしば工学系研究者の間で言及されるが,この関係を中長期的に捉えれば,それは歴史家の関心とも重なる.本稿では人々の自己認識に潜在的に大きな影響を与える人工物としての鏡に注目する.日本では明治時代に板ガラスの生産が工業的に可能になり,平面ガラス鏡の製造も可能となった.人々ははじめて現代に近い形で鏡を見て自身の姿に接し,様々な反応を示した.こうした時期を「歴史的鏡像段階」として捉え,近代的自我の確立や国民性の相違の底流にあるものとして注目する.