日本生態学会誌
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特集2 ユネスコMAB(人間と生物圏)計画―日本発ユネスコエコパーク制度の構築に向けて
我が国の生物多様性保全の取組と生物圏保存地域(<特集2>ユネスコMAB(人間と生物圏)計画-日本発ユネスコエコパーク制度の構築に向けて)
岡野 隆宏
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2012 年 62 巻 3 号 p. 375-385

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抄録

生物圏保存地域は、ユネスコのMAB計画(人間と生物圏:Man and the Biosphere)に基づいて登録される保護地域で、1976年に開始され、世界的なネットワークを構築している。我が国でも1980年に屋久島、大台ケ原・大峰山、白山、志賀高原の4カ所が登録されている。生物圏保存地域は、「生物多様性の保全」、「経済と社会の発展」、「学術的支援」の3つの相補的な機能を有し、この機能を発揮するために、核心地域(core area)、緩衝地帯(buffer zone)、移行地域(transition area)の3つの地域区分が設けられている。保護地域でありながら、機能の一つとして「発展」を位置づけ、持続可能な開発の具体的事例を示そうという点に特徴がある。残念ながら、我が国においては生物圏保存地域の知名度は低く、登録された地域においても活用に向けた議論や、持続可能な開発に向けた取組はほとんど行われていない。また、登録以降、生物圏保存地域の見直しが一度も行われていないため、我が国を代表する生態系が網羅されていない、4地域とも移行地域を備えていないなどの課題がある。これらの課題に対して、早急な対応が国際的に求められているが、これを機会と捉え、生物圏保存地域を我が国の生物多様性保全にどのように活用していくのかについて十分に議論し、将来像を広く共有することが望まれる。生物圏保存地域などの国際的な保護地域は、地域の保全意識の向上、分野横断的取組の促進、知名度の向上による社会経済的仕組みの推進力となることが期待される。本稿では、生物圏保存地域の活用の試案として、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で議論された「自然と共生する世界」の地域モデルとすることを提案する。具体的には、我が国の生態系を代表する地域において、保護地域制度と生物多様性保全の取組を統合的に実施することで、「生物多様性国家戦略2010」で述べられた3つの危機に適切に対応することである。あわせて、国際的な保護地域である生物圏保存地域とMABのブランドを国内においても確立することで、農林水産物の高付加価値化、観光地としての誘客などにつなげ、生物多様性の保全と農山村の地域活性化の実現を目指すものである。

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© 2012 一般社団法人 日本生態学会
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