日本生態学会誌
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特集1 境界で起こるプロセスに注目して河川生態系を理解する
森林-河川-沿岸海域のつながり : 粗粒有機物や栄養塩の移動と水生生物との関係(<特集1>境界で起こるプロセスに注目して河川生態系を理解する)
河内 香織
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2014 年 64 巻 2 号 p. 119-131

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抄録

本論文は、特集号のテーマである"生態系の境界"における現象について、河川に焦点を当てつつ理解を深めることを目的として執筆した。様々な現象が相互作用する渓畔林と渓流、河川上流域と沿岸海域における有機物と生物のつながりに着目して、筆者が行った北海道での研究を中心として既発表論文の解説に他文献のレヴューを加えた形で展開した。最初に、河川上流において渓畔林から渓流への粗粒有機物の流入について概説した。温帯における河川上流域は渓流の周囲が渓畔林に覆れているため、渓畔林と渓流とが密接に相互作用する場所である。渓畔林で生産された有機物の一部は渓流に流入することにより、水生動物の食物資源、生息場所、あるいは巣材として渓流生態系に組み込まれる。流入量やタイミングは様々な要因によって規定される。次に、上流から沿岸海域に流出した粗粒有機物の海洋生物による利用について紹介した。国内では陸上起源の有機物が沿岸に生息する海洋動物に利用されている事例、されていない事例の両方が発表されている。最後に、沿岸海域から上流に遡上したサケの上流域生態系への影響について述べた。サケマス類の生活史は、海洋由来の栄養分を河川上流部の水域および陸域生態系に還元するという特徴を持っている。1990年代以降、窒素安定同位体比による分析手法が確立したのを契機として、サケの産卵後の死骸について水域・陸域双方における食物網に関する研究が北米西海岸やアラスカを中心に進んできた。これに対し国内の事例は非常に少ないが、筆者らが行った研究を中心に概説した。隣接した生態系間の有機物の移動は有機物の栄養補償として認識されつつあり、森林-河川-沿岸海域における粗粒有機物の流れもそれぞれの生態系において重要な役割を果たしていると考えられる。したがって、日本の山地河川を含む流域管理を考えるうえで、上流域から沿岸海域までを大きなひとつのまとまりとして考え、その中における粗粒有機物の移動という視点を持つことが必要である。

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© 2014 一般社団法人 日本生態学会
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