食物網研究は生態学の中心的課題の1つである。陸域と水域の資源が混合する複雑な河川生態系において、捕食・被食関係を介した物質やエネルギーの流れを明らかにするために、各種生元素の同位体比は強力なツールとなる。本稿では、近年研究が進んでいる生物の放射性炭素14天然存在比(Δ
14C)を測定する手法を中心とした、同位体手法の応用事例を紹介する。
14Cは半減期5,730年の放射性核種であり、年代測定や生態系の炭素滞留時間を推定するツールとして注目されている。一方、河川食物網に対する陸域・水域由来資源の相対的な貢献度を推定するためにも、
14Cは有効なツールとなりうることが近年明らかになってきた。なぜなら河川を含む流域内には、大気CO
2から地圏へと隔離された
14C年代の古い炭素リザーバーが、複数存在するからである。このような炭素リザーバーの多くは、現世の大気CO
2とは異なるΔ
14C値をもち、たとえば食物網のソース推定などに応用することができる。また、既に大きく研究の進んでいる炭素安定同位体比(δ
13C)や他の生元素の安定同位体比、あるいは近年開発が進んでいる化合物レベルの同位体分析と
14C測定とを組み合わせることで、従来分けることのできなかったソースを分けられるようになり、物質やエネルギーの詳細な流れの解明につながることが期待される。このことは、本特集号のテーマである「流域における境界研究」に対しても、大きなブレイクスルーをもたらす可能性をもっている。
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