本特集ではカルタヘナ議定書を題材に、法的な解釈、細菌の多様性評価およびリスク評価に注目した話題を提供してきた。カルタヘナ議定書は、2014年4月現在、生物多様性条約下で発効している唯一の議定書である。生物多様性に対する影響因子が遺伝子組換え生物に限定されているが、生物多様性の影響評価を法的に取り決めた国際条約として、今後の国際的な取り決めの前例になることが予想される。しかし評価の対象となる「生物多様性」や「生物多様性に対する影響」については、概念的な理解は進んでいるものの、その実体は必ずしも捉えきれておらず、定量的な評価基準が定まっているわけではない。このような状況下で「生物の多様性の保全及び持続可能な利用に及ぼす可能性のある悪影響」の評価はどこまで科学的に実施できるのであろうか。本稿では、まずカルタヘナ議定書の成立過程と現在の論点を概観し、次に遺伝子組換えを含む、現代のバイオテクノロジーによって改変された生物(LMO: Living Modified Organism)に対して懸念されるリスクの内容と、生物多様性への影響評価がどのような観点から進められてきたかについて整理を試みる。それを受けて「生物多様性の影響評価」を実施する上で、生態学の貢献が期待される点について展望を示したい。