日本生態学会誌
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宮地賞受賞者総説
草原における生態系機能、生物多様性、空間的異質性、撹乱の関係を俯瞰する
吉原 佑
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2019 年 69 巻 1 号 p. 1-7

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抄録

草原は生態系機能や食料生産の場として極めて重要な生態系である。本稿では、草原の生態系サービスの持続的利用に向け、生態系機能、生物多様性、空間的異質性と撹乱それぞれの関係性について概説する。生物多様性と生態系機能の関係については草原を舞台として世界をリードするインパクトのある研究が展開されてきた。それらの多くは生物多様性が相補性効果等を介して生態系機能の上昇をもたらすことであった。生物多様性と空間的異質性の関係も同様に、概して正の関係がみられるが、これは植物等の環境の空間的異質性が動物に様々な生息地を提供することや、土壌中の資源の空間的異質性が根の競争を介して植物の共存をもたらしていることによる。撹乱はその空間的異質性に影響を与えるが、撹乱体制によってその影響は空間的異質性の創出にも喪失にもなる。したがって、空間的異質性をもたらす撹乱は、生物多様性の上昇を介して生態系機能を促進させる可能性があるが、草原における農地管理のように空間的異質性を損なう恐れも認識しておくべきである。また、環境の変動性が大きい生態系では、生物多様性が必ずしも生態系機能の安定に繋がらないということも認識しておくべきである。

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© 2019 一般社団法人 日本生態学会
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