日本生態学会誌
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学術情報特集 ポスト2020 年の生物多様性政策に向けて
リスクとベネフィットを合わせもつ外来植物の戦略的管理
江川 知花
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2019 年 69 巻 1 号 p. 29-35

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抄録

外来種による生態系影響は、生物多様性を脅かす危機のひとつとして認識されており、愛知目標でも侵略的外来種の制御・根絶が個別目標として掲げられた。日本では、侵略的外来種としてリストアップされている植物168分類群のうち、約6割が農業、園芸、緑化など様々な産業で現在も利用されている。侵略的外来種の制御や根絶を推進するという観点から見れば、これらの種の利用は規制されることが望ましいが、市場ニーズのある種の利用ができなくなれば、大きな経済上の損失が生じる。2030年に向けてますます重要性を増す生物多様性保全、そして経済成長という2つの命題に応えるためには、外来植物の産業利用と生態系被害の防止を両立させる有効な手立てが必要である。本稿では、外来植物の産業利用と生態系被害防止を両立するための方策のひとつとして、オーストラリアで考案された「戦略的管理システム」を紹介する。戦略的管理システムとは、有用性と侵略性を合わせもつ外来植物を対象に、その利用便益と生態系被害を定量的に評価し、利用量を適正化するための政策を決定する制度である。合理的な判断基準によって個々の外来種の利用量を定めることにより、外来種の経済効果を可能な範囲で享受しつつ、防除を推進し生態系被害を軽減することを目指している。戦略的管理システムについて概説した上で、2面性をもつ外来植物の取り扱いに関する日本の現状と課題を整理し、外来植物の産業利用と生態系被害防止の両立に向けて生態学者が果たすべき役割について考察する。

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© 2019 一般社団法人 日本生態学会
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