日本生態学会誌
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学術情報特集 ポスト2020 年の生物多様性政策に向けて
環境保全に取り組む市民団体の現状と再編
白川 勝信 志賀 誠治
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2019 年 69 巻 1 号 p. 45-51

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抄録

環境市民団体は、地域の生物多様性を保全する上で、重要な役割を担っている。社会全体の人口が減少していけば、その活動規模も縮小する懸念がある。しかし市民団体にはボランティアによって支えられている任意の団体も多く、取り組みや成果の全容を把握することが難しい。そのため、今後起こりうる活動規模の変化の程度や、これに伴う生物多様性への影響も予測が困難である。そこで本稿では、市民団体の中でも収支状況や事業報告が義務づけられており、行政によって情報が公開されている、広島県内のNPO法人を対象に、収入状況の把握を試みた。また全国規模の組織として、日本自然保護協会及び日本野鳥の会、そしてドイツ自然保護連盟の組織規模を比較した。広島県で環境に関わる市民活動を行っているNPO法人は、73団体で、収入の90%は上位20団体によるものだった。年間収入の規模は、およそ8割の団体が500万円以下、6割以上の団体が200万円以下であり、少数の大規模な団体と、多くの小規模な団体によって構成されていた。収入源は、事業収入が83.3%と大きな割合を占めていた。一方で、全国規模の団体では、収入に占める事業費の割合はより小さく、寄付金収入の割合が広島県におけるNPO法人の収入に比べて高い割合を占めていた。寄付金は、事業の対価としてではなく、活動に対する賛同を示すものであり、これら2つの全国規模の団体に対する共感が高いことが示された。  収入規模と並んで、会員数も市民団体が得ている共感を反映するだけでなく、団体が擁する会員の数は、社会の中での発言力にも影響する。しかし、環境市民団体の会員数は多いとは言えない。今後、日本において市民団体が発言力を持ち、市民の意思を社会に反映させるために機能するための一つの道筋として、ドイツ自然保護連盟、生物多様性とくしま会議、環境パートナーひろしまを例に、ボトムアップ型の組織構造について示した。

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© 2019 一般社団法人 日本生態学会
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