日本生態学会誌
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特集 種の境界:進化学と生態学、分子遺伝学から種分化に迫る
種分化ダイナミクスと数理モデル -生殖隔離進化の促進要因を探る-
山口 諒
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2019 年 69 巻 3 号 p. 151-169

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抄録

生物多様性の創出要因である種分化は、基本的に長い時間を要する事象であるため時系列に沿った直接観測は難しい。そのため20世紀前半より、数理モデルを用いた理論的研究が種分化に関わる仮説の検証や新仮説の提唱に大きく関わってきた。しかし、種分化の促進要因は多岐にわたるため、それぞれの種分化が個別の機構によって説明されることが多く、未だ統一理論は存在しない。一方、野外データやゲノムデータをどの種分化シナリオと対応させ、どのように生物地理学的な議論を行うかは、まず関連する進化機構の整理と統合が必要であるため、一見したところ乱立して見える理論を理解することは欠かせない。本総説では、種分化を達成する際に障壁となる諸過程の整理から始め、どのようなメカニズムがそれらを乗り越えて生殖隔離の進化を促すかを概説する。非常に多くの生殖隔離機構やそれらの進化パターンから共通する要素を抽出し、種分化ダイナミクスにおいて鍵となるメカニズムを特定することが目標である。そのため、古典的な地理的要因の理論から、近年の潮流である生態的種分化まで広範なトピックを扱うが、基本的には遺伝的浮動と多様化淘汰を強める要因を俯瞰したい。数理モデルを背景としてはいるものの、生態学者を対象に理論の理解を促進することを目指すとともに、現在提示されている生態的な仮説に対してはできる限りその対立仮説を取り扱うこととした。また、すでに検証が行なわれている仮説や理論的枠組みが遅れている箇所を明記することで、今後の種分化理論の発展が期待される方向を示した。

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© 2019 一般社団法人 日本生態学会
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