サケの野生魚と放流魚で遺伝的特徴に違いがあるのかを調べるため、北海道内の放流河川および非放流河川に生息するサケ13水系16河川25集団についてSNP43遺伝子座の分析を行った。遺伝標本は、遡上したサケ親魚またはサケ稚魚の体組織から採集した。また、耳石も採集し、耳石温度標識が確認されたふ化場由来の放流魚は分析から除外した。放流魚の比較対象として既報の北海道サケ放流魚26集団を加え、集団遺伝学的解析を行った。遺伝的多様性を野生魚と放流魚で比較したところ、放流魚で低くなる傾向を示した。一方、野生魚についても河川間では遺伝的多様性にばらつきが見られ、自然産卵が可能な非捕獲河川の方が遺伝的多様性は高い傾向にあった。野生魚の遺伝的集団構造は、既知の北海道放流魚の5地域集団に区分されたが、野生魚はその5地域間よりも地域内の集団間の方で高い遺伝的分化を示した。石狩川水系に属するサケ調査河川集団間でその遺伝的特徴を調べたところ、3つのグループに分かれ、同一水系内でも弱い遺伝構造が存在することが分かった。特に、野生魚で構成されている千歳川後期群のサケ集団は他のグループとは遺伝的に異なっていた。以上の結果から、北海道に生息するサケ野生魚は放流魚とは異なる遺伝的特徴を持つことが示唆された。