日本生態学会誌
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鳥類に優しい水田がわかる生物多様性の簡易評価手法
池田 浩明
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2020 年 70 巻 3 号 p. 243-

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抄録

農業による生物多様性の損失を低減させるためには、生物多様性に配慮した農業を普及させる必要がある。この普及のためには、環境に配慮した農業の取り組みによる生物多様性の保全効果を定量的に評価する手法を開発し、農地における生物多様性の「見える化」を図ることが有効である。これを受けて2012年に、農業に有用な指標生物(天敵など)を用いた生物多様性の評価手法を構築した。しかし、この手法は、指標生物がクモ類、昆虫類、カエル類で構成され、その訴求力や評価の簡易さの部分に改善する余地が残されていた。そこで新たに、訴求力が高く視認性も高い鳥類を指標生物に加え、絶滅危惧種などの希少種を加点する水田の簡易評価手法に改良した。  改良した評価手法は、包括的に生き物の生息環境を指標する生物1種類(サギ類またはその餌生物から選択)と栽培方法の指標生物2種類(クモ・昆虫類から1種類を選択、本田・畦畔の指標植物は必須)の個体数または種数をスコア化し、その合計スコアで総合評価する。ここで、スコアの基準となる個体数と種数は地域別(一部は農事暦や栽培方法・降水量で異なる)に定めた。また、環境省または都道府県のレッドリストにおける準絶滅危惧種以上の水鳥、絶滅危惧種のカエル類・植物(本田・畦畔)を加点(3種類の分類群ごとに+1点)できることとした(調査は任意)。最終的な評価は合計スコアを用い、環境保全型農業の取り組みによる保全効果を4段階(S?C、Sが最高ランク)で評価した。  本手法で全国6地域の調査水田(207圃場)を評価した結果、最高ランクのS評価となった圃場は、有機栽培で46%、特別栽培で13%、慣行栽培で3%だった。また、加点対象の希少種のうち、植物とカエル類は有機栽培の水田に、水鳥は特別栽培の水田が卓越する地点(グリッド)によく出現した。これらの結果から、水田における環境保全型農業の取り組みが希少種を含む生物多様性の保全に有効であることが示唆された。

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