2022 年 72 巻 1 号 p. 55-
バイオメカニクスは生物の形態や運動を力学的に分析する学問である。生物の行動は小さな動きの積み重ねであり、力学的な制約のもとで形成される生物の形態と運動はエネルギー収支を介して適応度にまで影響する。これまでバイオメカニクスは生物の機構を力学的に探求することで、生物の運動における普遍的な原理や機能の発見を遂げてきた。一方で、バイオメカニクスは境界領域であるためか、“孤立した学問”になりやすいことが指摘されている。このような状況を打破するには、生態学の研究テーマにも取り組むことで、より広範な問いに答えていくことが必要であろう。近年は、形態や運動の機能と制約のトレードオフ関係を分析することで、進化についても理解を深めようとするアプローチが提唱されている。こうした新しいアプローチに加え、隣接した分野の研究者とも連携していくことでバイオメカニクスは生態学の一分野として発展していくだろう。本論では代表的な研究を紹介しながら、バイオメカニクスが生態学分野にどのように貢献してきたのかを考察する。