日本生態学会誌
Online ISSN : 2424-127X
Print ISSN : 0021-5007
ISSN-L : 0021-5007

この記事には本公開記事があります。本公開記事を参照してください。
引用する場合も本公開記事を引用してください。

日本生態・進化英語セミナー(JEEES)の発足:国内での国際的な科学交流と人材育成の場を目指して
藤岡 春菜水元 惟暁キャス ジェイミイ
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開
電子付録

論文ID: 2402

この記事には本公開記事があります。
詳細
要旨

国際化が求められる一方、科学の共通言語である英語でのコミュニケーションの機会は、日本国内では今もなお限られている。そこで、生態学・進化学分野における外国人留学生と日本人との交流の活性化を図るため、コロナ禍の2021年から日本生態進化英語セミナー(Japan Eco-Evo English Seminar [JEEES])をオンラインで行い、2023年12月には対面でのワークショップを東北大学において開催した。本稿では、国際交流の場を提供する意義を伝え、企画の詳細と成果を報告する。本ワークショップでは、日本で研究する外国人と日本人の若手研究者や学生をターゲットに全日程を英語で進めた。国内の研究機関に所属し、海外経験がある多様なメンターを9名招聘した。通常のシンポジウムや学会で行われる長い研究発表をせず、自己紹介を目的とした3分間のライトニングトークと、参加者間の研究に関する議論や交流を目的とした少人数でのグループディスカッションを実施した。また、若手研究者の交流促進とキャリア相談の機会を提供するため、パネルディスカッションやピアメンタリング(同じ立場や似た経験を持つ人の間での助言やサポート)を設けた。JEEESは、国内における研究者の新たな国際的ネットワークやコミュニティの下地を提供し、今回得た経験をもとに、今後も日本の生態学・進化学における次世代の育成に貢献する活動を続けていく予定である。

Abstract

Despite the need for internationalization in Japanese science, opportunities to communicate in English, the common language of science, remain limited in Japan. With the aim of stimulating exchanges between foreign and Japanese researchers in the fields of ecology and evolution, we organized the online Japan Eco-Evo English Seminar (JEEES) from 2021 during the COVID-19 pandemic, and thereafter the in-person JEEES 2023 workshop at Tohoku University in December 2023. We report on the events and outcomes of JEEES 2023, highlighting the significance of providing a space for international exchange. The 2023 workshop targeted foreign researchers in Japan, as well as Japanese early-career researchers and students, and consisted of an English-language program of nine mentors with international experience who work at domestic research institutions. All participants were invited to give 3 min introductory lightning talks and participate in small-group discussions to facilitate conversation and exchanges about their research, which is in contrast to the lengthy research presentations typical of symposia or conferences. We also provided opportunities for career development and exchange between early-career researchers by organizing a panel discussion and peer-mentoring sessions, where advice or support was offered by colleagues at a similar career level. JEEES provides a foundation for new international networks and communities for researchers in Japan. Based on these experiences, future JEEES workshops will continue to contribute to the development of the next generation of internationally active scientists in ecology and evolution.

はじめに

日本生態進化英語セミナー(Japan Eco-Evo English Seminar[JEEES])の目的は、生態学・進化学分野において、若手研究者を中心に国内の外国人留学生と、日本人研究者の交流を活性化することである。これまでJEEESでは英語と日本語のバイリンガルでのセミナーをコロナ禍で月に一度程度オンラインで開催し、留学生と日本人学生の両方の発表を織り交ぜることで、定期的な交流の場の提供を行ってきた。JEEESホームページ(Kass・水元・藤岡「Japan Eco-Evo English Seminar」https://sites.google.com/view/jee-english-seminar, 2024年10月7日確認)にあるように、2021–2022年に企画したオンラインセミナーでは、日本で研究している様々なバックグラウンドの若手研究者11人(博士学生、ポスドク、助教)が登壇し、述べ300人の参加があった。一方で、オンラインでの限られた時間のイベントはキャリア相談などの深い交流に発展しづらいことが課題として残っていた。さらに、国内の多くの集会は日本語で開催されているため、留学生が日本の研究コミュニティと積極的に関わる機会が限られている。次世代の国際的な人材の育成に向け、科学の共通言語である英語でのコミュニケーションの機会を日本人にいる学生や若手研究者に積極的に提供するためには、対面での交流の機会を増やす必要がある。

また、日本で研究する外国人と日本人の若手研究者に焦点を当てた新たなネットワーク形成は、若手研究者のサポートにおいても重要である。特に日本のアカデミアでは、大講座制における教授と助教、教員と学生、学術振興会(JSPS)の制度における受入教員と特別研究員、先輩と後輩など、上下関係のあるメンタリング関係が一般的である。しかし、この関係性には、さまざまな対立が起こりうり、問題が発生することも指摘されている(Johnson and Huwe 2002)。例えば、メンターとメンティーの間で、ある課題に対して意見や求めるゴールの相違があり、進捗状況に関しても異なる見解を持つことも多い。メンターが強い立場であるため、最悪の場合はハラスメントにも繋がることがある。そのため、指導教員と学生間「メンターとメンティー」の関係性といった限られた関係性だけに頼らず、同じキャリアステージの研究者間でのメンタリングネットワークを築くことが重要である(Hanson et al. 2016; Kuhn and Castaño 2016; Milo and Schuldiner 2009; Pololi and Evans 2015; Shelton et al. 2021; Yun et al. 2016)。

この需要を受け、本著者らは2023年12月に日本で研究する外国人と日本人の若手研究者や学生を集め、対面で研究発表と交流を行うことを目的としたJEEES 2023を企画し、東北大学生命科学研究科の施設で開催した。2021–2022年のJEEESはオンラインのみの開催であったため、JEEES 2023は初めての対面イベントである。本ワークショップでは、進化・生態分野での国際的に活躍する人材育成への貢献のため、若手研究者の交流促進とキャリア相談の場としてパネルディスカッションやピアメンタリングを設けるなど、より参加者間のコミュニケーションを深める設計とした。セミナー後に参加者の感想を把握するため、アンケート調査を行った。

セミナーの実施

メンターの選定と参加者の傾向

企画者らは、研究の進め方やポスドク先の選定、学生指導に関する経験を共有していただけるメンターを9名招待した。メンターは、海外経験があることを前提に、国内の研究機関に所属する、ポスドク以上の方とした。ジェンダーや出身地などの多様性を考慮したが、企画者を含めて、男女比は1 : 1とし、日本人は6名であった。特に、候補として挙げることができた生態学・進化学分野における外国人の女性教員の数は、非常に限られていた。

本ワークショップの参加者をJeconetとEVOLVE2のメーリングリストやX(元Twitter)で募集し、32名が登録し来場した(メンターと企画者を除く)。Be Globalプロジェクト(東北大学「Be Globalプロジェクト 東北大学」https://www.insc.tohoku.ac.jp/japanese/be-global-project/, 2024年10月7日確認)などの国際研究プログラムを持ち、また留学生も多い東北大学で開催し、参加者の効率的な招集ができた(参加者の59%は東北大であった)。企画者・メンターを含む参加者の約半数は日本人であり、残りは留学生であった(図1)。その内訳としては、ヨーロッパと北米出身が多く、次いでアジア・アフリカ・オーストラリアと多様な出身地を含んでおり、国際的な場を持つことができた(図1)。キャリアステージとしては、修士課程の参加者が最も多く(27%)、ついで博士課程とポスドクが18%であった(図2)。

図1. JEEES 2023の参加者の出身国、灰色は日本、その他の色は、各地域を示す。

Fig. 1. Distribution of the nationalities of JEEES 2023 participants.

図2. JEEES 2023の参加者の属性。属性は、教授、准教授、助教、博士研究員(ポスドク)、博士課程、修士課程、学部生に区分した。

Fig. 2. Career stages of JEEES 2023 participants.

本ワークショップでは、通常のシンポジウムや学会で行われる研究発表の時間を設けず、全員参加型ライトニングトークと少人数でのグループディスカッション、キャリア相談のパネルディスカッション、ピアメンタリングの始動を行った。タイムスケジュールを表1に示す。週末の開催には、賛否があった。

表1. JEEES 2023のタイムテーブル(a)企画で実施に使用した英語版、(b)日本語版 Table 1. (a) English and (b) Japanese versions of the timetable used for the Japan Eco-Evo English Seminar (JEEES) 2023 workshop.

(a) English version
DateTimeActivity
Dec 9 (Sat) 
Day 1
10:00–10:30Reception
10:30–11:00Intro: What is JEEES?
Structure, Schedule, Expectations
11:00–12:00Lightning talks session 1 (3 min self-introduction)
12:00–13:00Lunch
13:00–14:00Lightning talks session 2 (3 min self-introduction)
14:00–14:30Coffee break
14:30–15:30Lightning talks session 3 (3 min self-introduction)
15:30–16:00Coffee break
16:00–16:50Group discussion session 1 〈research〉
17:00–18:00Group discussion session 2 〈research〉
Dec 10 (Sun) 
Day 2
9:00–9:30Coffee break
9:30–11:00Panel discussion
11:00–12:00Group discussion session 1 〈careers〉
12:00–13:00Lunch
13:00–14:00Group discussion session 2 〈careers〉
14:00–14:30Coffee break
14:30–15:15Peer-mentoring circles
15:15–15:30Closing remarks
(b)日本語版
日付時間内容
12月9日(土) 
1日目
10:00–10:30受付
10:30–11:00導入:JEEESとは何か?
活動内容、本ワークショップのスケジュール、期待すること
11:00–12:00ライトニングトーク1(3分間自己紹介)
12:00–13:00昼食休憩
13:00–14:00ライトニングトーク2(3分間自己紹介)
14:00–14:30コーヒーブレーク
14:30–15:30ライトニングトーク3(3分間自己紹介)
15:30–16:00コーヒーブレーク
16:00–16:50グループディスカッション1〈研究〉
17:00–18:00グループディスカッション2〈研究〉
12月10日(日) 
2日目
9:00–9:30コーヒーブレーク
9:30–11:00パネルディスカッション
11:00–12:00グループディスカッション1〈キャリア〉
12:00–13:00昼食休憩
13:00–14:00グループディスカッション2〈キャリア〉
14:00–14:30コーヒーブレーク
14:30–15:15ピアメンタリングサークル
15:15–15:30閉会

企画ごとの内容

ライトニングトーク

本ワークショップでは、アイスブレイク(研修やビジネスにおける商談などで、場の空気を和ませるために行うゲームや雑談のことを指す和製英語)もかねて、参加者全員が1–2枚のスライドを用いて、3分間以内の研究紹介および自己紹介のライトニングトークを行った。また、当日の進行状況を加味してメンターの持ち時間は3分間から5分間とした結果、研究の紹介だけでなく、キャリアの変遷や若手研究者への激励メッセージも含めてもらうことができた。また、発表資料は事前にDropboxの共有リンクを利用して、参加者全員に共有するためスライドを提出してもらった。ライトニングトークは3分間という短い時間での発表により、英語での発表の経験がない学生にとっても、挑戦しやすいものとなるようにした。スムーズな進行のために質疑時間をあえて設けなかったが、このことも学生のハードルを下げることにつながったかもしれない。発表の前には、結果など研究の詳細を説明することは求めておらず、各自の研究興味を伝えることを促した。

グループディスカッション

参加者間の交流を目的とし、1人のメンターと、4–5人の参加者で構成された小グループで自由形式の議論の時間を設けた。メンターは司会役兼状況に応じて参加者へのアドバイス役を担っていただいた。全ての参加者が発言することを条件に、グループごとに進め方やテーマは自由とした。1日目に研究に関する議論を2ラウンド、2日目にキャリアに関する議論を2ラウンド行った。参加者の多くにとって、研究とキャリアに関する悩みは関連が大きく、セクションを分ける必要性はなかった。

パネルディスカッション

9名のメンターをパネリストとして、座談会形式の意見交換の時間を設けた。開催前に、匿名のフォームを用いて、メンターに対する質問を募った。主に研究の進め方やキャリア形成などに関して、想定より多い30もの質問が寄せられた。集められた質問と企画者が準備した質問をまとめ、時間管理、研究、キャリア、メンタリング、ジェンダーに関する以下の7つの質問を用意した。

  • 1.    たくさんの仕事量をどのように処理しているのか?

    • (How do you handle the heavy load of tasks?)

  • 2.    良い研究と悪い研究はなにか?インポスター症候群をどのように対処すべきか?

    • (What is “good” and “bad” research? How should we deal with Impostor Syndrome?)

  • 3.    共同研究はどのように始めるのか?

    • (How do you start new collaborations?)

  • 4.    外国人は、どのように日本で仕事を見つけるのか?

    • (How did you get a job in Japan as a foreigner?)

  • 5.    指導教員がとても忙しい場合、どのように対処すれば良いのか?

    • (What should I do if my supervisor is very busy?)

  • 6.    研究室での後輩の指導にはどれくらい責任を持つべきか?

    • (How much should students be responsible for looking after junior students in the lab?)

  • 7.    日本における女性限定公募に対する考えは?

    • (What is your opinion about female-only jobs in Japan?)

各質問に対し10分間の時間を設け、メンターが持つ意見やメンター間での議論を聴衆に共有した。パネルディスカッションでの議論の概要を付録1に示す。

ピアメンタリングサークル

教員と学生、先輩と後輩など、上下関係のないサポート体制を確保してもらうことやネットワークづくりのため、本企画では、新たなピアメンタリングサークルを始動する機会を提供した。ピアメンタリングとは、同じ立場や似た経験を持つ人の間での助言やサポートを意味する。若手研究者のサポートとして、上下関係のない対等者(peer)で構成された少人数のグループで、定期的に(数週間ごと)ピアメンタリングサークル(peer-mentoring circles, 以下、PMC)を行うことが提唱されている。PMCでは、構成員の間で世代またはキャリアステージや、経験値の差が少ないことが特徴である。一般的にこの関係性は、メンタリングのほかにも、コーチングと呼ばれる。Shelton et al.(2021)で紹介されている方式に習いJEEES 2023では、グループの作成と自己紹介、今後のミーティングについての相談の時間を設け、JEEES後にPMCでのミーティングの実施を依頼した。

PMCの具体的な進行方向は以下の通りである。

  • 1.    各参加者は10分間の持ち時間があり、順番に発表者となる。発表者は、その10分間で現在の問題や仕事に関する望みを短く要約する。2回目以降は、前回のミーティングからの進捗を話した後に、現状を話す。
  • 2.    他の参加者は、その課題の解決法を直接提案するのではなく、発表者の問題を深く理解するための質問をする。例えば、これまで発表者が行った試行錯誤のプロセスを明確にし、発表者の現状やどのような次のステップが必要なのかを浮き彫りにする。
  • 3.    発表者は、最後の2分間で次のミーティングまでに達成可能な目標を立て、グループメンバーに共有する。

発表者以外に、進行役、タイムキーパー、書記の担当があり、ミーティングごとに順に行う。議論のために最も重要なことは、守秘義務をもつこと(confidentiality)、積極的傾聴(相手の立場で理解するよう務めること)(active listening)、決めつけを行わないように務めること(practicing non-judgement)である。

アンケートの結果

各セクションの満足度

ライトニングトークについては、「とても満足した」62%「満足した」34%という回答であった(図3)。“3 minutes is perfect”など、3分間という時間設定は、自己紹介の時間として好評であった。改善点としては、「どのような発表を求めているかという説明をしていなかったため、戸惑った」や、「各参加者の研究興味をまとめた資料を配布してほしかった」という意見もあった。次回は、具体的な発表準備のガイドラインを提供するなどの対応をとりたい。

図3. JEEES 2023の企画の満足度と母国語に関するアンケート結果。企画全体を通しての満足度、各企画に対しての満足度、またこの企画に参加したいか、この企画を他者に勧めるかという問いに対して、5段階の評価での回答を求めた。企画に不参加の場合は、回答なし。出身国からは母国語を判断できないため、英語が母国語であるかも調査した。回答者は32名。

Fig. 3. Results of JEEES 2023 participant surveys (n=32) regarding attitudes toward the entire event, individual activities, and future events. Attendees who did not participate in individual events were excluded from totals. As nationality is not a determinant of English proficiency, we also asked participants whether they considered themselves to be native speakers of English.

グループディスカッションについては、「とても満足した」47%「満足した」34%という回答で、他の企画に比べると満足度は少し低い傾向であった(図3)。この企画では、学部生、修士、博士、ポスドクといったキャリアステージが異なる参加者を混ぜたグループ構成を目指すとともに、同じ大学からの参加者がなるべく同じグループにならないよう考慮した。しかし、東北大学からの参加者が多いこと、当日の欠席者が複数人いたこともあり、偏りなくグループを構成することはできなかった。アンケートから、グループ構成に関しての問題があったという意見が複数寄せられた。参加日の確認や、研究室や研究分野に関して事前に調査を行い、自動的にグループ分けを行う仕組みの導入を、次回は検討したい。

パネルディスカッションについては、「とても満足した」63%「満足した」22%という回答があり、満足度が高い企画であった(図3)。一方で各質問に対し、全てのメンターから意見をもらう時間はなかった。参加後のアンケートでは「もっと時間がほしい」という意見が多数あり、このような企画の需要の高さが伺えた。さらに時間の制限もあり、パネルディスカッションは聴衆から質問を受けるというよりは、一方的にメンター間の議論を聞く形式であった。今後のイベントでは、パネルディスカッションにもっと多くの時間を割くことや、追加のセッションなどを設けるのも効果的かもしれない。

ピアメンタリングサークルの継続について

JEEES 2023で構築したPMCが機能しているかを調べるため、開催3ヵ月後に2度目のアンケートを行った。40%のグループでは、その後1度のミーティングが開催され、60%のグループでは1度もミーティングが行われなかった。PMCを機能させるには、長期的なサークルの維持が不可欠である。ミーティングの日程を調整するリーダー的な立ち位置のメンバーが不在の場合、継続的なPMCを構築することは難しいようだった。当日の反省点として、グループトークの間に、参加者の連絡先の交換、1度目のミーティングを日時と場所の確定(オンラインの場合はURLを共有する)、当日の進行役までを決めることを、確実にアナウンスすべきであった。PMCへの参加を希望する参加者のみでのグループ構成することや、企画者側からのリマインド連絡、事前にグループの中で長期的な日程調整役を決めるなど、継続的なミーティングを行うための工夫が必要である。

参加者の英語力

参加後のアンケートによると、16%(5/32)の参加者はネイティブスピーカーであった(図3)。参加者の英語能力には、大きなばらつきがあった。想定していた問題ではあったが、英語能力に応じて、議論の内容や進行に差が生まれていた。オープニングでは、参加者に対して、怖がらずにしゃべること、聞き取られなくてもまずは同じことをリピートして言ってみること、英語上級者には普段よりゆっくり喋ること、わかりやすい表現を使うことを、依頼した。企画者としては、英語力が未熟である学生が、完全に英語のみで開催される本ワークショップに積極的に参加してくれたことや、その中で楽しむ努力をしてくれたことに、大変感謝している。英語でのコミュニケーション機会の提供することで、英語学習の必要性を再確認し、本ワークショップでの経験が英語学習のモチベーションを上げることに繋がったのではないかと期待する。少なくとも、いきなり海外での国際学会に参加して苦い経験をするよりも、それを先取りすることの効果はあるかもしれない(その経験自体も成長のために必要である場合もあるが)。

ワークショップ運営の工夫

国内での一般的な企画運営ではあまり重要視されないが、特別な食生活をもつ方のために、食事の提供の際にはベジタリアンやハラルへの対応が必要であることは強調したい。イスラム教の方がセミナーの途中でお祈りができるスペースも提供する必要もあった。また、マイカップの持参案内や可能な限りのペーパーレス化など、SDGsを意識した企画運営を行った。さらに、ワークショップの開催についての持続性も考え、運営の負担を極力小さくすることも意識した。プログラムはGoogle Docsで作成し、参加者にリンクを共有した。共有後にも修正や追記が容易に行える点で、使いやすい仕組みであった。さらに、プログラムの中に参加者プロフィール欄を作成し、事前に簡単な自己紹介の記入と写真の提供を依頼した。参加者はいつでも自ら編集できるので、取りまとめの必要がなかった。参加者の中には、事前に参加者プロフィールをチェックし、会話を始めている様子なども見られ、意義あるものであった。また、プログラム内にはタスク管理リスト(To-do list)を作成し、参加前のやるべきことを明確にし、資料の提出などが比較的スムーズに行われた。

本ワークショップは、日本における英語企画であり、日本人と留学生の交流の活発化が主な目的である。日本人学生の参加なしには、企画が成り立たず、宣伝については、英語・日本語の両方を作成し、両者にとって参加しやすくなるような工夫を行った。また、本ワークショップは、進化学振興木村資生募金から助成を受けており、旅費サポートを行った。事前にどれくらい申請があるかの予想が難しく、対応が困難であった。参加者を募る際に、旅費サポートが必要かどうかだけでなく、出発地や宿泊日数を基にした旅費の概算の提出も求めることで、スムーズに対応できたと思われる。開催の大学によっては旅費申請の書類に英語対応がない場合も想定されるため、同様の形式での開催が難しいこともあるだろう。

さいごに

最後に、企画全体を通して素晴らしいワークショップとなった。特に、たくさんの参加者と話せた、キャリアについても意見交換ができたことについて参加者から好評価が得られた。通常の学会では、研究についての議論はできるが、参加者間の交流は限られたものになりがちである。特に国内学会では留学生と日本人学生との間の交流は少ないのが現状であろう。本ワークショップでは、少人数でのなかば強制的な交流機会を提供することで、これまで不足していた交流を増やすことができた。さらに企画全体を通してコーヒーブレークの時間を多く設けるなど、余裕のあるタイムスケジュールを組むことで、企画者らも会を楽しむことができた。そして本ワークショップのような対面かつ英語での企画は、これまでも必要であると感じていたものの、実際の参加者やメンターらから参加してよかったという声を直接いただき、このような企画の重要性を実感できたこともまた大きな収穫である。

本ワークショップでは、学部生からポスドクまで幅広い参加者を募った。このようなキャリアステージ間の交流は意義深いものであるものの、限られた時間では、各キャリアステージ特有の問題を深堀するのは難しい。今後の展望として、このようなワークショップの周知が広まり参加者が増えるとともに、各キャリアステージにフォーカスしたものを開催するのも有意義に思われる。本稿の知見が活用され、今後の日本の科学分野における国際的な交流や若手育成の場が増大することを願う。

図4. JEEES 2023のグループ写真。国や性別を問わない多様な人に参加していただいた。

Fig. 4. Group photograph for JEEES 2023. Overall, the participants represented a diverse group in terms of nationality and gender.

謝辞

本企画は、進化学振興木村資生募金(Motoo Kimura Trust Foundation for the Promotion of Evolutionary Biology)の助成を受けたものである。東北大学生命科学研究科(Graduate School of Life Sciences, Tohoku University)に共催いただいた。ここに謝意を表する。スムーズな運営、活発な議論、サポート、そしてさまざまなフィードバックまで、JEEES 2023に参加いただいた全ての参加者とメンターに感謝いたします(図4)。

付録

Appendix 1. Overview of the content of the panel discussions during the Japan Eco-Evo English Seminar (JEEES) 2023 (English and Japanese).

付録 1. 日本生態・進化英語セミナー(JEEES)2023のパネルディスカッションでの議論の概要(英語と日本語)

リンクが示されていない付録は本文のオンラインサイトに掲載。

https://doi.org/10.18960/seitai.2402

引用文献
 
© 2025 著者

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
feedback
Top