論文ID: 2409
近年急速に普及しているドローンなどのUAV(unmanned aerial vehicle,無人航空機)は生態学においても様々な場面で利用されており、その利用は今後益々拡大するだろう。本報告では、UAVの利便性を概説し、動物生態学、海洋生態学、植物生態学など様々な分野の研究者による8つの具体的な研究例をもとに、UAVの利用価値と今後の発展性について議論する。本報告は2024年3月に開催された日本生態学会大会において開催したシンポジウム「UAVによって拡がる生態学」で発表した演者が文章を寄せ合ったものである。
Unmanned aerial vehicles (UAVs) such as drones have rapidly gained popularity and are being used to study various aspects of ecology. This report summarizes the utility of UAVs and discusses their value and potential for future development, based on eight research examples from different fields, including animal, marine, and plant ecology. This report is a collection of contributions from presenters at the symposium ‘Emerging Ecology using UAVs,’ held at the annual meeting of the Ecological Society of Japan in March 2024.
UAV(unmanned aerial vehicle,無人航空機)は、種々の技術革新(ジャイロセンサーや加速度センサーの小型化、バッテリーの軽量化&容量の増加、全球測位衛星システムの利用と精度向上、スマホなどによる容易な操作性)により、利便性が飛躍的に向上し、様々な業界で急速に普及している。生態学においてもUAVは有効な研究手段として様々な場面で利用されており、その利用が今後益々拡大することが予想される。本報告では、まずUAVの利便性を概説したのち、生態学での応用例として8つの研究事例を紹介する。
生態学におけるUAVの利便性について、既に多くの論文で述べられているが(Anderson and Gaston 2013; Sun et al. 2021)、主要な点として、以下の7点を挙げる。(1)データの取得の効率化:UAVにより、広域の画像やデータを取得できる。これにより、従来の現地調査では不可能であった、広域のデータを取得できる。(2)アクセスしにくい場所でも調査可能:道路から離れた原野や山岳地域、湖沼や海、危険な動物の生息地や災害地など、人間が立ち入るのが難しい場所でも調査可能である。(3)高解像度画像による詳細情報の取得:衛星画像に比べるとUAV画像は解像度が高く、個体位置だけでなく、健康状態や種の判別などが可能である。(4)モニタリングが可能:定期的な調査により、季節変化や長期変化を評価できる。衛星や航空機観測に比べ、調査者の都合で、観測頻度を機動的に調整できる利点もある。(5)安価:航空機観測は1回で数百万円以上の費用が生じるが、UAVは安価なものでは数万円から入手でき、また繰り返し観測することができる。(6)多様なセンサーや治具による応用可能性:一般的なRGB(red–blue–green)カメラの他に、サーマルカメラによる温度評価、マルチバンドカメラやハイパースペクトルカメラによる可視光だけでは捉えきれない環境計測、LiDAR(Light detection and Ranging)による3次元測量など、センサーを変えることにより、多様な計測が可能になる。またセンサー以外にも、試料を取得するなどの治具を取り付けることにより、人がアクセスできない場所からの試料採取も可能である。(7)スケールアップ:UAVによる観測データは、現地調査データと衛星観測データの中間に位置し、シームレスに、現地スケールから広域スケールにスケールアップすることができる。
UAVは、生態学や環境科学においても、様々な用途で活用されている。本報告では、著者らが実際に関わっている8つの具体的な研究事例を紹介することにより、UAVの生態学における有用性をお伝えしたい。まず序盤の2件は動物生態学に関わるもので、(1)山岳地域におけるUAVを利用したヒキガエルのラジオテレメトリーと、(2)UAVとマイクロフォンを利用した尾瀬ヶ原湿原のシカ個体数の推定である。次の2件は沿岸・海洋生態学に関わるもので、(3)グリーンレーザーUAVと渦相関UAVによる藻場の生産力の評価、(4)空撮ドローンとラジコンボートを用いた海況観測である。後半の4件は森林生態学に関わるもので、(5)UAV-LiDARと長期観察林データを用いた広域のバイオマスマッピング、(6)UAVによる広域の樹木多様性評価、(7)UAVレーザーを用いた森林内空隙解析、(8)UAVの観測データを利用した森林の光環境のシミュレーションである。紙面の都合上、各トピックの説明は短いものになっているが、適宜参考文献を引用し、より詳細な文献にあたることができるようにした。また各トピックでは、今後のUAV研究の発展性についての議論も含めた。
山岳地域におけるUAVを利用したラジオテレメトリー(倭 千晶、佐藤拓哉)動物の空間利用は、彼らの生態を詳細に理解し、生息地を適切に保全・管理する上で欠かせない基礎情報である。山岳地域では、複雑な地形により、比較的細かい時空間スケールで日射環境・風環境などの勾配が生じる。このため、山岳地域に適応した動物は、時空間的に多様な独自の生息地利用戦略を示す可能性がある。生物に電波発信機を装着するラジオテレメトリーは、電波発信機の小型化が進んでいるため、小さな動物の位置を数日から数ヵ月にわたり追跡できる数少ない手段である。しかしながら、従来のラジオテレメトリーでは、電波受信機と八木アンテナを手で持った人が歩いて発信機由来の電波を探すため、現地踏査が困難な山岳地域などでは小動物の生息地利用を十分に定量評価できなかった。そこで、本研究ではUAVに電波受信機と、八木アンテナよりも軽い二素子の指向性アンテナを載せ、電波発信機を装着した動物の位置を空から推定する方法の開発に取り組んだ。
対象生物は、移動生態に関する基礎的知見が不足している両生類成体とした。京都大学和歌山研究林において、約0.56 gの電波発信機を装着したニホンヒキガエル(Bufo japonicus)4個体(139–254 g、図1)を放した(Yamato et al. 2023)。その後1ヵ月毎に3ヵ月間、計36個の飛行経路に沿ってUAVを飛ばした。1度の調査で捜索した範囲は最大1.5 km2、標高差600 m程度であり、各飛行経路は約20分間で150 m×200 mの範囲をカバーした(図1)。山の動物の隠れ場所から発された電波は、植生などにより減衰するため、特に遠くから受信しにくい。このため、UAVを直交する2通りの方向に飛行させ、受信する確率を上げた。
全ての個体は、放してから1–60日の間に見つかり、最大で1.7 km移動していた。個体が飛行範囲内にいた異なる日・飛行経路の組み合わせから成る13通りの場合において、合計55回UAVを飛行させた結果、89.7±14.4%(n=13)の確率で電波を受信した。13回中12回の試行においては、2回の飛行で必ず電波を受信し、残りの1試行では3回中1回の飛行で電波を受信した。22.4±21.0 m(n=48)の精度で位置を推定でき、ヒキガエルが地中20 cm深く、岩の下、樹洞の35 cm奥にいる場合にも、地表にいる場合と大きく変わらない精度で位置を推定できることが明らかになった。なお本研究では、UAVにより事前にヒキガエルの位置を推定した場合、約30分以内に従来の電波受信機と八木アンテナを持ち踏査する方法で個体を再捕獲できた。
本手法は山岳地域の小動物に広く適用可能である。また、広範囲を低労力に捜索できるため、発信機を装着した個体の行方が分からなくなる確率を軽減し得る。つまり、本手法は、現地踏査が困難な地域でラジオテレメトリーを導入する障壁を軽減し、山岳生態系における小動物の生息地利用戦略の解明に寄与すると期待される。また、本手法では複数個体の位置を同時に推定できる。つまり、従来のように観察個体数に比例して観察労力が増えないため、個体・個体群・さらには群集の時空間分布の評価が実現する可能性がある。群集全体を対象に、ニッチの空間的・時間的分化・重複を評価することなどにより、山岳地域における生物多様性の維持解明に役立つだろう。
UAVリモートセンシング・複数マイクロフォン手法による尾瀬ヶ原湿原のシカ個体数の推定(沖 一雄)尾瀬ヶ原・尾瀬沼は日本最大の山岳湿原として知られており、湿原が形成されてから1000年以上の年月が経過しているといわれている。尾瀬には貴重な植物群落が生育し、平成17年にはラムサール条約登録湿地に登録されている。また、5~7月の湿原植物の開花時期をピークに年間30~40万人の観光客が訪れるなど、人々に幅広くその自然環境・植生の価値が認められている。一方で、1990年代半ばからシカが確認されるようになり、自然植生へのシカによる影響が顕在化し、生態系への不可逆的な影響が懸念されている。
これまで尾瀬のシカの生息数に関する指標として、主にはライトセンサス調査による目撃数の変化が使われてきた。しかし、ライトセンサス調査はその日の気象条件やシカの動きに強く影響を受けるため、データの観測誤差が大きくなる問題がある。その他、シカの生息密度の指標として、自動撮影カメラの撮影頻度とGPS首輪から得られた移動速度を元に推定する手法があるが労力がかかる。また、糞塊調査、糞粒調査、区画法などもあるが、これらの手法は尾根や山の中を歩き回りシカやその痕跡を探すという手法であり、人による踏査が難しく湿地帯である尾瀬のような湿原には適さない。現在、尾瀬の湿原内外において、シカの捕獲が実施されているが、尾瀬の植生被害を低減させるために必要な捕獲数は設定されずに捕獲が行われている。このことから、尾瀬のような湿原域でも精度が高く労力がかからない密度調査手法が求められている。
本研究は、UAVリモートセンシングとマイクロフォン地上センサによるシカ個体数推定手法を開発し、それらの精度を比較検討し、人のアプローチによる調査が難しい湿原域におけるシカ個体数推定手法を提案した。図2aよりUAV空撮は、ライトセンサス調査では見えない場所のシカを把握することが可能であることを示している(牧ほか 2020)。また、図2bには2019年9月26日~28日にかけて、湿原域を覆うように配置した7本のマイクロフォンで記録されたシカの鳴き声データを元にシカの位置を推定した結果を示した(Salem et al. 2021)。
UAVとマイクロフォンによるシカの位置分布を比較したところ、UAVによる個体数では、尾瀬ヶ原西部地域のシカの個体数はおよそ470~696頭と推定され、マイクロフォンによるシカ個体数推定は、およそ539.9~667.4頭と推定された。UAVとマイクロフォンによるシカの個体数の推定原理は全く違うにも関わらずほぼ同じ推定結果が得られ、それぞれの手法の有効性が示された。これらの手法が、今後の尾瀬において活用されることが期待される(沖ほか 2022)。また人が歩いて調査を行うことが困難な他の地域での応用も見込まれる。
グリーンレーザーUAVと渦相関UAV(桑江朝比呂)大気中CO2の吸収源として近年注目を集めているのが浅海生態系である。しかしながら、その吸収源を活用する際に抱えている根本的な課題の1つが、吸収量の実測が困難なことである。それゆえ、CO2吸収量を実務において算定するために作成されているIPCCのガイドラインでは、吸収量の直接計測の代替として「生態系内での炭素貯留量の増減」=「大気−生態系間CO2交換量」とみなし、生態系内での炭素量の増減を算定するよう定めている(Hiraishi et al. 2014)。
同IPCCガイドラインでは、生態系内での炭素増減量を、「活動量」(対象生態系の面積(ha))と、「吸収係数」(単位面積当たりの生態系内の年間炭素増加量(トンCO2/ha/年))の2つの数値の積で示すことになっている。そのため、生態系面積、植生量、あるいは生態系純一次生産速度(NEP)の正確かつ効率的な計測が、CO2吸収速度算定の鍵となる(桑江ほか 2019; 水産研究・教育機構 2023)。
浅海生態系に含まれる海草場や海藻場の面積算定には、可視光カメラが搭載されたUAVも広く活用されるようになってきた。しかしながら、植生量(植生の3次元的な空間分布)の計測は、依然として潜水調査等による現場観察に依存しており、広範囲計測には多大な費用や時間を要する。
このような計測手法上の隘路を打開するため、ハイブリッド動力による長時間フライトが可能なUAVにグリーンレーザースキャナ搭載した計測システムを開発した(図3)。このシステムにより、超高速(>3万点/秒、<1分/ha)かつ高精度(空間誤差約数cm)で、透明度の1.5倍程度までの水深における点群データが取得可能であり(伴野ほか 未発表)、点群データの解析により海底地形や植生の分布、密度、高さを算定できる(図3)。
上述の間接的な算定方法の場合、生態系内炭素量の増減を漏れなく計上することが前提となるものの、実際の浅海生態系においては、陸域からの炭素流入や系外への炭素流出が顕著であるため、間接的な算定には大きな不確実性が残されている。したがって、理想的にはやはり吸収速度の直接計測が望まれる。
大気中CO2の吸収速度を連続的に広域で直接計測する最良の方法は渦相関法であると思われる。しかしながら、渦相関法の適用にあたっては、タワーの設置(通常5~30 m)や大型船舶(マスト)といった設置プラットフォームが必要なことなど、観測システムが大がかりで労力や費用がかかることや観測場所の制約がある。
そこで、渦相関システムをUAVに搭載することによる「タワーレス渦相関システム」の構築を着想し、現在機体改良とCO2吸収速度の精度検証を実施中である(図3)。森林生態系でテストした結果、ハイブリッド動力から排気されるCO2が計測に影響を与えないことや、同地点のタワーに設置された渦相関システムによる吸収速度と同程度の数値であったことが確認できている。もし開発が成功すれば、浅海域のみならず陸上においても生態系—大気間のCO2交換速度の直接計測手法として広く活用が期待される。
空撮ドローンとラジコンボートを用いた海況観測(木田新一郎)海洋の観測手法における新しい試みとして、空撮ドローン(UAV)と水上ドローン(USV)を組み合わせたアプローチを紹介する(図4)。沿岸域では、潮の満ち引きや複雑な海岸線の形状により、海の流れや水塊の特性が時々刻々と変化する。このため、従来の船を使った手法では、観測中に現象が変化してしまう問題があった。近年、衛星観測の性能が向上し、海色の空間分布が数百メートル程度の空間解像度で入手できるようになったが、水温や塩分、流れなどの物理環境情報はまだ十分に把握できておらず、沿岸域は実態像が把握しきれていない現象が数多く残っている。
沿岸域の特徴的な現象の一つに河川プリュームと呼ばれる「海の中を流れる河川」がある。河川水は、海に流入すると河口から沖に向かって同心円状に拡散するのではなく、岸を右手に見るように流れていく傾向がある。これは地球の自転の影響を受けるためである。また、河川プリュームと海水の間には急激に塩分が変化する「河川フロント」と呼ばれる水中カーテンのような構造が形成され、これが海面で「潮目」として見える。潮目の位置は沿岸域のどこに陸からの物質が流れ込みやすいのかを決定するため、生態系の分布や特徴を左右することになる。
我々は、河川フロントを高解像度かつ3次元的に観測するため、UAVに搭載したマルチスペクトルカメラで上空から海面を撮影し、同時にUSVに搭載した測器で海中計測を実施することに挑戦した(木田ほか 2023)。USVを使用するメリットは、海水を直接観測できること、流速計のような重い測器を搭載できることである。まず海面上に存在する泡の移動や海色分布の時間変化から、オプティカルフロー法を用いて海面流速場を推定した。この画像解析から得られた流速値は、流速計を用いた計測値と概ね一致することが確認できた。また海面付近の塩分やクロロフィルa濃度と、マルチスペクトルカメラで取得した海色変化との関係性を調べることで、海面付近におけるこれらの空間分布を推定することができた。さらに海中の鉛直観測を組み合わせることで、河川フロントが1メートルの厚みもない、予想よりも薄くシャープな構造をもつことが明らかになった。
異なる特徴をもったドローンを用いて空と海を同時観測することで、測器の性能向上だけでは得られない新しい視点を持った観測手法を構築することができた。今回は空と海、それぞれのドローンを1台ずつ使用したが、複数台を同時に使用すれば観測範囲を大幅に拡大することもできるだろう。海洋物理学におけるドローンを使った観測手法はまだまだ発展途上だが、水面での離発着や採水、外洋を無人で移動するセール型ドローンなど、船に依存してきた観測手法が大きく変わろうとしている。今後は、これらの情報を沿岸域における生態系の成り立ちや予測モデルに活用することで、物理場と生態系の連結過程の理解を深められるのではないかと期待している。
UAV-LiDARと長期観察林データを用いた広域AGBマッピング(中路達郎)リモートセンシングによる森林の地上部バイオマス(AGB)の空間分布情報は、森林の炭素蓄積量や生産性に資する生態系サービスの評価など、環境科学、生態学的評価指標の情報源として重要な意味を持つ(Dalla Corte et al. 2020; Ma et al. 2024)。無人ドローン搭載型のレーザースキャナ(UAV−LiDAR)は、従来の航空機や人工衛星よりも高い空間分解能をもち、比較的低コストでの運用も可能であることから、近年、その利用が活発化している(Dalla Corte et al. 2020; Xu et al. 2021)。一方、地上での毎木調査データから算出されるAGBは、リモートセンシングによる空間情報をAGBに変換する際のモデル作成と精度検証に不可欠である。毎木調査の区画(プロット)の面積は比較するリモートセンシングデータの空間分解能をカバーするのが望ましい。しかし、多くの衛星の撮影画素の投影面積は、従来の地上調査プロットより大きいため、有効な地点数や多様な検証地点の確保は容易ではなく、予測精度の向上や品質維持にとって大きな課題である。本研究では、高空間分解能の観測が可能なUAV-LiDARを利用することで、地点数はあるものの、これまで森林AGBの広域マッピングにおける真値データとして扱いづらかった小面積の毎木調査データの活用を試みた。北海道大学苫小牧研究林(落葉広葉樹二次林と針葉樹造林、面積約2,700 ha)を対象に、147地点の長期観察林(図5a)における毎木調査データ(樹種・DBH、一部で樹高計測)を用いてIshihara et al.(2015)の手法によって樹木バイオマスを算出し、各プロットのAGBを計算した。プロット面積のレンジと平均はそれぞれ0.06–1.15 ha、0.20 haであった。2022年8月に、UAV-LiDAR(DJI社、Matrice 300RTK+Zenmuse L1)を用いて全域をカバーする183回のフライトを行い、点群を解析することで空間分解0.1mの植生高マップを作成した(図5a)。AGBはUAV観測で得られた植生高とともに現地の立木密度と針葉樹/広葉樹の比率によって有意に説明された。LiDARの植生高のみを説明変数にした場合、AGB 61~293 t/haに対して誤差(rRMSE)19%の直線回帰モデルが得られた(図5b)。このUAVベースのAGBを真値と仮定し、JAXA衛星GCOM-CのAGB(約650 m四方タイル×54地点)(図5c)と比較すると、衛星出力は13%の過大評価、17%の誤差を持つと試算された(図5c)。
これまで生態学・林学で扱ってきた多くの森林調査面積は1 ha未満で空間的に拡張する難しさがあったが、このようにUAVを活用することで広域にスケーリングアップすることが可能になった。今後は、AGBだけでなく、生物多様性や生態系サービスといった地表研究で得られる知見の高精度かつ広域評価も可能になると期待される。
UAVによる大面積の樹木多様性評価(小野田雄介)従来の森林の資源量評価で用いられる毎木調査は非常に労力がかかり、0.1 ha(1000 m2)を調査するのにも数人で1日かかることもある。したがって、広域の森林に対して全て毎木調査を行うことは不可能である。一方で、近年、普及してきたLiDARとUAVは、従来の毎木調査の一部を代替し、また毎木調査よりも大面積での評価を可能にする。飛行高度や求める解像度にも拠るが、20–30分のUAVの飛行で数十haの面積をカバーすることができ、1日で500 haの調査も可能である。これまでの毎木調査の作業範囲に比べると、桁が3つ4つ違う。
UAVによる空撮画像を合成することにより、森林のオルソ画像(真上から見たような歪みのない画像)を作成でき、林冠木の色合いや形などの違いが詳細にわかる。またLiDARによる3次元測量を組み合わせると、空間解像度がcmスケールの超詳細な地形図や樹冠高モデルが構築できる。これらの情報を用いて、樹冠を個体ごとに分離することができ、それぞれの樹冠面積や樹高を容易に評価することができる(Htoo et al. 2024)。またディープラーニングによって、樹種判別も可能である(Onishi and Ise 2021)。図6は、このような技術を使って、大阪公立大学附属植物園において、25 haほどの広域な森林に対して、樹冠レベルで樹種判別を行ったものである(小野田ほか 2024)。この植物園では日本の森林を再現した11種類の林分とその周囲に天然生の二次林があり、それぞれの林分において、1–2割程度の林冠木について樹種を現地調査により確認し、これを学習したディープラーニングによって、残りの未調査の個体に対しても樹種を推定している。このような調査により、広域的に、生物多様性や炭素貯留量を評価することができる。
これらの新しい計測や解析方法は発展途上であり、改良の余地もまだまだある。樹冠画像から樹木の個体を分離する技術は、アルゴリズムの開発が進んでいるが、複数の木を1本と認識したり、1本の木を複数の木と認識することもある。また樹種判別の精度は学習量や条件にも依存し、誤判別することもある。またUAVは林冠層の情報は得られるが、下層木の情報はあまり得られず、地上LiDARなどとの併用が必要になる場合もある。これらの技術的課題が解決されることにより、より高精度かつ信頼性の高い情報を得ることができ、環境保全や持続的な林業など、様々な方面において、役立つだろう。
UAVレーザーを用いた森林内空隙解析(加藤 顕)通常のドローン(UAV)による森林データ収集は、森林上空からデータ取得が行われている。UAVによるデータ収集は、衛星や航空機によるデータ収集と比較すると、高頻度、高解像度、高スペクトルでのデータ取得が可能となる(加藤ほか 2014)。高解像度の写真画像により、SfM(Structure from Motion)を用いて樹冠の詳細な3次元データを構築できる。高頻度のデータにより、衛星軌道や機材調整の心配が不要になる。またこれまでにないスペクトルセンサーや調査目的に応じたセンサーをUAVに搭載してデータ取得ができる。これらのメリットに加え、長距離のUAV飛行による広範囲のデータ取得により、様々な課題、例えば、小~中規模の中規模撹乱仮説や広域でのランドスケープ平衡(Kato et al. 2020)を詳細に検証・評価できる。これらの利便性により、UAV活用が劇的に進むと考えられる。
その一方で、森林上空からでは、樹冠の量に応じてデータ取得が制限されるため、森林内のデータ収集が確実にできないという課題がある。そこで、樹冠内を透過して3次元データを収集できるレーザー(LiDAR)による森林内状況把握が有効である。高密度で点群データが取得できるUAV-LiDAR(図7a)を用いれば、森林上空からでも森林内データ収集が可能である。しかし、軽量化した小型LiDARを用いる場合は、森林上空から森林内データを確実に収集することは難しい。そこで、森林内でUAVを飛行させてデータを収集できるUAVの開発を進めている。森林内の飛行を実現するためには、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれる自己位置を推定する技術を用い、3次元データをオンタイムで合体していかなければならない。誤差なく安定してデータを構築する方法(データ取得、解析方法)が望まれている。上空からではなく、森林内で直接データ取得することで、森林内の計測精度が劇的に向上する。
森林内での空間計測データは生態学に新たな着眼点をもたらす。そのひとつとして、景観生態学で重要視されているコリドーとしての役割のある森林内「空隙」に注目した研究も行っている。森林などの有機物に囲まれた空隙は、ビルなど無機物によって囲まれた空間とは異なり、次世代の森林を育くむ特別な生育環境を提供できる。例えば、熱緩和効果として、有機物に囲まれた森林内は外気温の極端な変動に対して一定に保とうとする機能がある(加藤ほか 2024)。または、空隙の繋がりや広がりは、動物が移動する場所としての役割がある。本研究では3次元データ解析に使うボクセル法を用いることで空隙という構造物が無い空間を定量化し、その空間的連結性を評価できるようにした(図7bc)。森林内での3次元データ取得は、樹木の幹周計測や下層植生の正確な分布など、構造物の計測精度の向上に注目しがちであるが、空隙として囲まれた空間を直接計測できるという新たな視点で、生態学における新たな空間論を今後検討していきたい。UAVレーザーによって、特定の種が好む快適な森林内生育環境を地図化していけるだろう。
UAVの観測データを利用した森林の光環境のシミュレーション(小林秀樹)森林の樹冠構造は、林内の微気象やガスフラックス交換、人工衛星リモートセンシングで観測される森林の反射分光スペクトルに影響を与える。また、林内の光環境を正確に知るためには森林構造の詳細なデータが必要である。従来から航空機LiDARなどで観測した点群データから樹冠の構造を推定する研究が行われてきた(例えばChen et al. 2006; Kato et al. 2009)。しかし、過去のLiDAR観測ではレーザーの照射点密度が十分ではない場合も多く、樹木を回転楕円体などの簡易な幾何形状で近似している事例が多かった。近年普及が進むUAVなどの低高度プラットフォームによるLiDAR観測では、高密度のレーザー照射点群の取得が可能となっており、森林のより詳細な構造を景観スケールで取得することができる。
ここでは、こうした高密度レーザー点群情報の活用例として、森林の光環境やリモートセンシング画像のシミュレーションを紹介する。図8は北海道大学の苫小牧研究林内の落葉広葉樹サイトにおいてUAVによって得られたカラー写真(UAVオルソ画像)とシミュレーションによって得られた近赤外帯域の反射率のグレースケール画像の比較である。シミュレーション画像は、LiDAR点群データを10 cm立法格子ごとの葉面積密度の分布データに変換し、その格子状の森林景観に太陽光の入射方向から光子(フォトン)を追跡したシミュレーションを多数行って計算されたものである(シミュレーション手法の詳細はKobayashi and Iwabuchi(2008)、Béland and Kobayashi(2024)で詳しく説明されている)。図8の(a)と(b)の比較からLiDAR点群データから変換された森林構造情報(葉面積密度)を用いたシミュレーションで、森林樹冠部からの光の反射の空間分布が詳細に計算され、その分布傾向がUAVオルソ画像の濃淡とよく一致していることがわかる。また、(b)は近赤外帯域の単一波長の反射率の分布であるが、多波長(ハイパースペクトル画像)のシミュレーションを行うことも可能である。図8(c)はその一例としてハイパースペクトル・シミュレーション画像(RGBとして表示)と図中の白丸地点の反射率スペクトルを示している。
UAVの観測データは、地球観測衛星では把握の難しい詳細な生態系の分布を捉えることができる。本研究では、落葉広葉樹林におけるUAVの観測データをモデル計算に利用する事例を紹介した。森林の3次元データは光環境だけではなく林内の様々な微気象や生態系プロセスを詳細なスケールで再現(シミュレーション)するための、基盤データとなることが期待される。
本稿では、生態学におけるUAVの利便性について、動物生態学、海洋生態学、植物生態学など様々な分野にわたり、8つの具体的な研究例をもとに説明した。これらの研究例は、最初に述べた通り、日本生態学会の大会シンポジウムで紹介されたものであり、学会最終日の最後のセッションにも関わらず、会場には、立ち見が出るほど聴講者がいた。総合討論では、「技術の進歩が速すぎて非専門家が研究にリモートセンシングなどの先進的な計測技術をとり入れるのに障壁があり、指導教員が指導をできない、あるいは最新計測技術の応用方法をよく理解しないばかりに学生に陳腐な研究テーマを与えてしまう恐れがあるが、どのようにそれらを回避できるか」という質問もあった。この質問の通り、UAVを含むリモートセンシング技術は非常に進歩が早く、本シンポジウムのような集会を定期的に開催することが、最新技術の普及や、技術を持っている研究者との交流を促進することに繋がるだろう。また大学や研究機関の施設を活用したハンズオントレーニングの実施も有効であろうという意見もあった。
生態学者同士が情報共有や技術トレーニングをすることに加え、生態学者と技術者の連携も重要である。UAVを使った写真測量などは、関心をもつ生態学者は誰でもできる時代になりつつある。一方で、UAVの応用範囲は、写真測量には留まらず、UAV本体を改造して、新たなセンサーや治具を導入することにより、従来不可能であった空間計測や試料採取を可能にする。本記事でも紹介した、桑江氏らのグリーンレーザーによる水面下の藻場の評価や、木田氏らによる空中と水中のドローンの併用による海況観測、加藤氏らによる林内UAVの開発などは、技術開発による研究のブレイクスルーを期待させるものであった。「生態学者が考えつく技術の多くは、工学系の研究者にとっては多くの場合既に実現可能」というコメントもあり、生態学者が工学分野の研究者や空間計測を強みとする企業の技術者と積極的に連携することが、生態学を発展させていく上で重要だろう。
最後に、UAVが生態学の様々な分野に利用されていることは、UAVを介して、生態学の各分野の繋がりを深めることにも貢献するだろう。今後UAVの利用向上に伴って、生態学が益々発展することを期待する。
本報告は2024年3月に開催された日本生態学会大会において開催したシンポジウム「UAVによって拡がる生態学」をまとめたものです。シンポジウムでコメントを寄せていただいた参加者及び、シンポジウムの概要をまとめていただいた竹重龍一博士に感謝します。本シンポジウムの開催にあたり、学術変革領域研究(A)(21A403)「デジタルバイオスフェア:地球環境を守るための統合生物圏科学」の助成を一部受けました。