雪氷
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ネパールの氷河湖決壊洪水
山田 知充
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2000 年 62 巻 2 号 p. 137-147

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抄録

地球温暖化の影響でネパール王国は, 1960年代以降少なくとも14回, 3年に一度以上の頻度で氷河湖決壊洪水 (Glacier Lake Outburst Flood, 略称GLOF) に襲われている.氷河湖は岩屑に覆われた氷河の末端に形成されて, モレーンで堰き止められている.モレーンは小氷期にできた不安定な堆積物である.容易に決壊し, 数百万m3から数千万m3の湖水が数時間のうちに一気に溢れ出すためGLOFは鋭い洪水波形をもつ.インフラや村落の生活基盤の破壊, 人命や家畜の損失に加えて, 斜面崩壊, 森林破壊, 河床への膨大な堆砂など, ヒマラヤの自然にも深刻な損傷を与える.多量の土砂を含むため土石流の様相を呈し, 破壊力が大きい.現在拡大を続けているネパールの氷河湖は1950~1960年頃に誕生した.その後急激に成長し, 長さ1~3km, 幅500m, 深さ80~130m, 貯水量3000~8000万m3もの大きさに拡大を遂げ, 今後のGLOF発生の危険は極めて高い。本総説では氷河湖を持つ氷河の特徴と氷河湖の分布, 氷河湖決壊洪水の実態, その急激な成長過程を紹介し, 今後に残された課題を述べる.

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