雪氷
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ヒマラヤの氷河の雪氷生物
竹内 望
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2001 年 63 巻 2 号 p. 181-189

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抄録

本総説では,今までに明らかになったヒマラヤの氷河に生息する雪氷生物の生態を紹介し,微生物による雪氷面アルベド低下効果と,微生物を使ったアイスコア分析について解説する.雪氷生物とは,氷河や雪渓などの雪氷圏に生息する低温環境に適応した特殊な生物のことをいう.ヒマラヤ氷河には,雪氷藻類と呼ばれる植物が繁殖し,その生産に支えられた動物やバクテリアが生息しており,これらの生物で構成される単純で閉鎖的な生態系が存在している.雪氷生物は,氷河の環境に適応した特有のバイオマスや群集構造の分布,また行動や生活史をもっている.ヒマラヤに多く分布する岩屑に表面を覆われたデブリカバー氷河では,氷河上湖や氷体内水系を生息場所とした生物群集が存在する.雪氷生物は,地球物理学にも重要な面があることが明らかになってきた.雪氷生物の繁殖は氷河表面のアルベド(日射光の反射率)を低下させて融解を加速し氷河変動にも影響を及ぼすこと,アイスコアに含まれる雪氷微生物の分析が新たな過去環境の指標になる可能性があることがわかってきた.

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