抄録
モレーンで堰き止められた氷河湖の置かれている気象・水文環境と急激な拡大をもたらす熱環境について,ネパール東部のツォーロルパ氷河湖を例に述べる.
湖は11月中頃から4月末の5.5ヶ月間結氷している.湖の吸熱期は5月から冷たい融解水が多量に流入し始める6月中旬までの1ヶ月半に限られる.夏期,湖の集水域の融解水と雨水は,全て一旦氷河内部の水系に取り込まれ,湖水中に開いた氷河の開口部から,多量の浮遊粒子を含む0℃の水となって湖に流入し,エンドモレーンを超えて流出している.高濁低温の流入水・湖面での熱収支・定常的に吹く谷風が,湖の温度構造・浮遊粒子濃度分布・湖水の運動を決めている.湖水のみかけ密度は水温よりも深さと共に増加する浮遊粒子濃度に依存している.湖は年間を通して安定成層状態を保っているので,全層に亘る循環を起こす時期はない.
湖は誕生以来42年間に,長さ3.2km,平均深さ55mへと急成長した.拡大は,夏期に限られる氷河末端氷崖の湖への崩落による長さ方向と,年間を通してほぼ一定速度で起こっている湖底に融け残っている氷河氷の融解による深さ方向との2方向に生じている.熱収支解析から,急激な拡大が起こるに充分な熱環境にあることが検証された.