環境科学会誌
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一般論文
南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)における生態系アプローチの適用
大久保 彩子
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2010 年 23 巻 2 号 p. 126-137

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抄録

海洋にかかわる多様な問題に対処していくためには,人間活動が海洋生態系に及ぼす影響を包括的に把握し,統合的な視点から管理していくことが重要である。海洋生物資源に関しては,漁業管理において海洋生態系を構成する生物および物理的側面の双方を考慮に入れることを目的に,生態系アプローチの適用が図られてきた。生態系アプローチは,国連海洋法条約,生物多様性条約,責任ある漁業のためのFAO行動規範など,多くの国際条約や行動計画においても重要な概念として盛り込まれてきた。一方で,生態系アプローチのもとで実際に講じられてきた管理措置を体系的に分析した研究は少ない。そこで本稿では,国連事務総長報告等において生態系アプローチ適用の先駆的取組みとして評価されている,南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)の事例を対象に,管理措置の内容に着目した分析を行うとともに,そうした管理措置の導入を促進した要因について考察する。国際条約等における生態系の考慮に関する記述をもとに,生態系アプローチの構成要素を次の4点に整理し,分析視点として用いる:1)生態系の構造と機能を考慮した管理,2)知見の現状に応じた管理,3)管理における良きガバナンスの確保,4)多様な人間活動の統合的な管理。CCAMLRの生態系アプローチには,魚種ごとに漁獲枠を設定する単一種管理の手法に基礎をおき,予防原則を適用しながら既存の管理手法を組み合わせ,強化・拡張していく現実的な管理のあり方を見出すことができる。

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© 2010 社団法人 環境科学会
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