環境科学会誌
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23 巻, 2 号
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一般論文
  • 地域間経済格差からみた中国の環境問題
    黄 錚, 外岡 豊, 関口 和彦, 王 青躍, 坂本 和彦
    原稿種別: 一般論文
    2010 年23 巻2 号 p. 67-80
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    中国では,「改革・開放」政策を取り入れた1980年代以来,経済の高度成長が続いている。しかし,近年になって,地域間経済発展の不均衡がますます拡大し,沿岸部と内陸部との経済格差が広がってきた。先進国と発展途上国の経済発展のギャップは「南北問題」と表現されているが,中国国内でも,地域間において「南北問題」と言われるほど経済発展のレベルには大きな格差がみられる。一方,環境汚染問題もそれに伴い地域間の格差が日増しに顕在化し,国際間における汚染産業移転説と同様に,中国国内においても汚染産業の沿岸部から内陸部への移転と推定される現象が現れている。本論文では,SO2,COD,工業固形廃棄物などの排出量の変遷を環境指標とし,1981年から2005年までのそれらの統計データを用いた地域別の環境クズネッツ曲線の分析を通じて中国の沿岸部と内陸部の経済発展と環境負荷の関係を比較考察した。その結果として工業固形廃棄物の分析において見られるように,沿岸部はより厳しい環境規制を実施することで,工業固形廃棄物の内陸部への移転を促す副作用をもたらしたと考えられる。また,その裏づけとして地域間の経済発展の格差により,それぞれの地域の環境政策の選択にも影響を及ぼしていたことが分かった。こうした地域間経済発展のアンバランスは地域間の環境格差を産むだけでなく,国全体の環境悪化につながる恐れがあることを示唆した。
  • 瀧口 博明, 森田 一樹
    原稿種別: 一般論文
    2010 年23 巻2 号 p. 81-95
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    持続可能な社会に向けて,低炭素化に対応した高機能マテリアルの高次元の3Rsが必要となっている。高次元の3Rsとは,高機能マテリアルの製造工程での投入原単位とライフサイクルにおける環境負荷のリデュース(Reduce),製造工程で発生する規格外品や使用済品のリユース(Reuse)とリサイクル(Recycle)を意味する。本稿では,高機能マテリアルの一例として,太陽電池用の多結晶シリコン(Si)を対象に,その高次元3Rsを実現するための要件を明らかにした。多結晶Si型太陽電池は,変換効率とコストのバランスのよさから最も普及が進んでいるが,需要の拡大を受け多結晶Siを持続可能な形で確保することが課題となっている。現在,太陽電池用多結晶Siの多くがエネルギー多消費型の方法で製造されており,多結晶Si製造時のエネルギー投入量や太陽電池に用いるSi投入量の原単位のリデュース(削減)が求められている。本研究において,使用済太陽電池のモジュールをリサイクルする場合,回収されたSiを多結晶Si製造工程の後に投入することが望ましいことが,エネルギー投入量・CO2排出量の分析結果により明らかになった。また,太陽電池モジュール全体の価格が一定との仮定を置いて,モジュールのセル部分の価格が変換効率の一次関数で表される評価モデルを構築し,現状のデータを用いてその妥当性を検証したところ,±20%の誤差の範囲内で適用可能であることが示された。このモデルを用いて2020年における太陽電池モジュールのリユース・リサイクルの可能性を検討した。その結果,太陽電池モジュールを20年後にリユース・リサイクルする場合,市場競争力を有するためにはモジュール価格を新品時の4割以下に設定することが求められることがわかった。
  • 伊藤 寛幸, 増田 清敬, 山本 康貴
    原稿種別: 一般論文
    2010 年23 巻2 号 p. 96-105
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    本稿では,草地圃場整備が環境に及ぼす負の外部性の影響を経済評価した。分析対象は,大規模な草地基盤を有する北海道の中でも,特に酪農専業地帯(根室・釧路・宗谷地域)を想定した草地圃場の大区画化モデルとした。草地圃場整備の施工段階において投入された燃料および施工資材からの環境負荷排出量増加分(外部費用)と,営農段階において営農機械の大型化や作業効率の向上による燃料消費量節減に伴う環境負荷排出量減少分(外部費用削減便益)を,それぞれ外部費用に換算し,経済評価した。
    分析結果を要約すると,以下の通りである。第一に,施工段階における合計外部費用は42,928.5円/ha(8,585.7円/ha/年)と推計された。第二に,営農段階における外部費用削減便益は,利用形態別では草地更新が1,240.8円/ha/年,乾草調製が953.2円/ha/年,サイレージ調製が938.8円/ha/年,放牧管理が377.5円/ha/年,利用割合でウェイトを取った加重平均値は963.6円/ha/年と推計された。第三に,仮に北海道酪農専業地帯の草地圃場が全て大区画化された場合,事業評価期間において,施工段階の外部費用総額が94.4億円,営農段階の外部費用削減便益総額が44.9億円,ポテンシャルとして発生しうると試算された。
  • 栗山 昭久, 阿部 直也
    原稿種別: 一般論文
    2010 年23 巻2 号 p. 106-114
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    近年,森林の公益的機能の見直しや地球温暖化の顕在化にともなって人々の環境意識が高まり特に,森林が持つ二酸化炭素吸収能力が注目を浴び,林業に関する関心が高まっている。また,国際的な木材の需要の高まりから,一部の国産材は相対的に市場競争力を回復しつつあり,結果として自給率も回復基調にある。このように森林・林業をとりまく情勢は近年大きな変化を迎えていて,日本の森林・林業関係者は適切な対応を迫られている。
    そこで本研究では森林整備事業の中核を担う森林組合に注目した。都道府県別の森林組合のデータを基に都道府県ごとにDEA (Data Envelopment Analysis)による経営効率性分析を行い,得られた経営効率値とヒアリング等によって得た3点((1)森林組合の規模の効率性(2)森林組合の被雇用者の年齢構成(3)森林組合の被雇用者の賃金体系)との関係について重回帰分析を用いて検討した。次に,DEAによって得られた結果より,模範性の高い都道府県の森林組合の活動形態を検討することにより,今後森林組合が目指すべき方向性について検討を行った。
    その結果,経営効率値と被雇用者の賃金体系との間に負の関係がみられ,雇用安定性が増すと効率値が下がることが示唆された。また,森林組合の活動形態として本来の業務である林産・販売業務あるいは近年必要性が指摘されている間伐活動に対する重みが高いことが判明した。
    今後の課題は,第一に分析対象を個別森林組合レベルの経営データを用いて詳細な分析を行い,効率性の要因を詳しく考察することである。第二に森林整備活動支援交付金制度(2007)に代表されるように森林維持管理を目的に投入されている巨額な補助金の森林経営性に対する影響を検討することである。しかし,上記の2つの課題を明らかにするために必要な情報が現時点では十分に公表されていないことが,大きな制度的課題として存在する。
  • 藤山 淳史, 松本 亨
    原稿種別: 一般論文
    2010 年23 巻2 号 p. 115-125
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    2008年に閣議決定された第2次循環型社会形成推進基本計画には,地域の特性や循環資源の性質等に応じた最適な規模の循環を形成する「地域循環圏」の概念が盛り込まれた。地域循環圏の形成は,廃棄物・循環資源の品目別に適した循環圏を形成することで最終的に国全体の資源生産性を向上させ環境負荷を削減することが目的であるが,実現までに取り組むべき課題は多い。本研究では,望ましい「地域循環圏」を構築するため,廃棄物・循環資源の輸送に関する分析を通じて類型化を行い,その類型毎に最適な循環圏を決定する理論の構築を行うことを最終的な目標と見据えつつ,その第一段階として輸送問題,Gravity Modelと数量化理論I類を用いて産業廃棄物及び廃PETボトルの輸送の現状と要因を分析した。その結果,輸送における現状と最適解の乖離があること,輸送量には輸送距離が,輸送距離には発生場所や処理施設の地理的偏在性が与える影響が大きいことが明らかとなった。
  • 大久保 彩子
    原稿種別: 一般論文
    2010 年23 巻2 号 p. 126-137
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/25
    ジャーナル フリー
    海洋にかかわる多様な問題に対処していくためには,人間活動が海洋生態系に及ぼす影響を包括的に把握し,統合的な視点から管理していくことが重要である。海洋生物資源に関しては,漁業管理において海洋生態系を構成する生物および物理的側面の双方を考慮に入れることを目的に,生態系アプローチの適用が図られてきた。生態系アプローチは,国連海洋法条約,生物多様性条約,責任ある漁業のためのFAO行動規範など,多くの国際条約や行動計画においても重要な概念として盛り込まれてきた。一方で,生態系アプローチのもとで実際に講じられてきた管理措置を体系的に分析した研究は少ない。そこで本稿では,国連事務総長報告等において生態系アプローチ適用の先駆的取組みとして評価されている,南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)の事例を対象に,管理措置の内容に着目した分析を行うとともに,そうした管理措置の導入を促進した要因について考察する。国際条約等における生態系の考慮に関する記述をもとに,生態系アプローチの構成要素を次の4点に整理し,分析視点として用いる:1)生態系の構造と機能を考慮した管理,2)知見の現状に応じた管理,3)管理における良きガバナンスの確保,4)多様な人間活動の統合的な管理。CCAMLRの生態系アプローチには,魚種ごとに漁獲枠を設定する単一種管理の手法に基礎をおき,予防原則を適用しながら既存の管理手法を組み合わせ,強化・拡張していく現実的な管理のあり方を見出すことができる。
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