抄録
日本の環境国際協力では,市民への環境教育など市町村が持つ経験が活用されている。しかし,財政難によって市町村による環境国際協力にも地元への見返りが求められ始めており,国際協力の内容が制約されるおそれがある。本稿では,市町村の強みを活かす環境国際協力を継続するために,市町村中心で行うエコポイント事業からの寄付の活用について検討した。第一に,2010年12月現在で実施中のエコポイント事業を調べた結果,市内の植樹等への寄付を含む事業はあるが,海外の環境対策への寄付を含む事業は見いだされなかった。第二に,国際協力に熱心な北九州市と横浜市で無作為抽出した成人市民各1,757名を対象に実施した社会調査の結果,全体的な傾向として,ポイント還元時に海外への寄付の割合が高いエコポイントは忌避される傾向がみられた。ただし,寄付への態度には個人差があり,発展途上国の問題に関心が強い人,居住している市の環境国際協力継続への賛意が強い人,高年齢層の人は寄付に協力的であった。一方,既存のエコポイントの収集経験がある人は,海外への寄付により否定的であった。第三に,北九州市のカンパスシール事業をモデルに海外の環境対策への寄付をより多く集められるエコポイントの形態を検討した。従来の事業では,レジ袋を20回断ると50円分の買い物割引券がもらえる。この従来型ポイントと一定額を海外に寄付するポイントのいずれかを選択できる想定で市民の選択状況を予測した結果,海外への寄付額の割合を小さめに設定する方が結果的に寄付総額が増えることが明らかになった。北九州市民から集約できる環境国際協力資金は,エコポイント事業への参加率に応じて年間100~419万円となった。環境国際協力事業を進める上でこの額が十分かについてはさらなる検討が必要であるが,発展途上国の市民環境教育等の事業をすすめる上で一定の意義があると考える。