環境科学会誌
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一般論文
放射性物質のリスク認知と除染後の故郷への帰還意志の関係
村上 道夫小野 恭子中谷 隼
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2015 年 28 巻 3 号 p. 193-210

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抄録

東京電力福島第一原子力発電所事故により,10万人を超過する人々に避難指示が出された。本研究では,市民の一般的態度として,放射性物質のリスク認知や幸福重要尺度が故郷への帰還意志にどのような影響を及ぼすのかを調査した。追加発がんリスクと追加実効線量という2つのリスク情報を提示することで,リスク情報による帰還意志の違いに影響を及ぼす因子を特定した。放射性物質の恐ろしさ因子に関するリスク認知や,放射性物質に関する知識や政府または科学への信頼感の欠如因子が,故郷への帰還意志に影響を及ぼしていた。一方,放射性物質の未知因子に関するリスク認知や家族やコミュニティとの生活に関する幸福重要尺度が帰還意志に及ぼす影響は小さかった。被験者に提示されたリスクレベルの違いよりも,放射性物質の恐ろしさ因子に関する個々人のリスク認知の違いの方が,帰還意志に大きな影響をもたらした。放射性物質に対して直感的な恐ろしさを感じたり,放射性物質に対する知識や政府・科学に対する信頼感を持たない人の一部が,リスク情報として追加発がんリスクよりも追加実効線量を提示された場合に,リスクを大きく感じることが示唆された。

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© 2015 社団法人 環境科学会
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