環境科学会誌
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一般論文
宮崎県綾町の照葉樹林群落の動態と影響する様々な環境要因との関係
齊藤 哲 永淵 修中澤 暦金谷 整一新山 馨
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2017 年 30 巻 3 号 p. 190-202

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抄録

大気汚染,気象,病虫獣害の環境要因が宮崎県綾町の照葉樹林の森林動態に及ぼす影響を評価することを目的とし,主要樹種の動態パラメータと環境要因との関係を1991~2013年間の照葉樹林群落のモニタリングデータ(2~4年間隔で計7期間)を基に解析した。期間ごとの枯死数はヒサカキ以外の全樹種で,非常に強い台風のあった1991~1993年が最も多かった。期間の枯死数を表す一般化線型モデルでは,1991~1993年を含めた場合,解析対象の14樹種中8樹種で強風の影響を表す指標に正の係数が選択された。また,4樹種で大気汚染物質と正の関係がみられた。1991~1993年を除くと,強風,大気汚染物質ともに5樹種で係数が正の値となった。1993年台風直後に生存していた幹のそれ以降の枯死や成長を台風や生物被害の有無で比較した結果,台風被害を受けた幹は1993~2013年間に50%以上が枯死し,その割合は台風・生物被害ともに受けなかった幹に比べ有意に高かった。一方,相対成長率は16樹種中11樹種で1993~1997年まで増加傾向を示した。一般化線形モデルの解析では14樹種が林冠木密度に負の係数がみられ,1993年の台風撹乱に起因する林冠木密度の減少が成長を促進させたと考えられた。また大気汚染の影響を表す指標に8樹種で負の係数がみられた。調査地の林内外におけるパッシブサンプラーによる測定から実際にオゾンが林冠へ沈着していると考えられ,大気汚染が成長に影響している可能性が示唆された。1993~2013年間の相対成長率に,台風被害や病虫獣害の有無による差はみられなかった。22年間の個体群動態には強風の影響が最も大きいと考えられたが,いくつかの種には大気汚染が成長に影響している可能性もみられ,これらが今後枯死の増加をもたらすか注視していく必要がある。

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