環境科学会誌
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一般論文
オントロジー工学に基づく心豊かなライフスタイルの構造の明示化—第二報:手法の検証—
岸上 祐子 古川 柳蔵須藤 祐子石田 秀輝溝口 理一郎
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2018 年 31 巻 3 号 p. 103-122

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抄録

環境問題が深刻化する昨今,将来予想される環境制約下における心豊かなライフスタイルの実現が望まれている。第一報では,オントロジー工学で用いられる機能分解木の応用について検討し,ライフスタイルを説明する概念を抽出し構造化する方法について論じた。本稿では,第一報で述べた方法の有用性について検証した。ライフスタイルをはじめ社会学では概念の抽出が重要とされる。オントロジー工学に基づいた行為分解木によって,行為のほか社会背景,制約など暗黙の前提を含んで概念を抽出し,それらの関係性をもってライフスタイルを構造化することにこの手法が有用であるという結果を得た。行為分解木によってライフスタイルの概念を重層的に示すことを可能としたことに加えて,ゴール達成の過程に暗黙に存在する中間ゴールを抽出することで,一見関連がないように見える行為も共通のゴールを目指した行為であることなど,認識の共有に資することを明らかにした。また構築した個々の行為分解木をとりまとめることで,サンプルのライフスタイル記述文では意識されていない,暮らしの最終的なゴールとなる概念を抽出でき,それらはOECDの幸福の枠組み・生活の質の枠組みなどと整合性のあるものであることを確認した。これらのことから,本研究で論じたオントロジー工学に基づく行為分解木作成手法は,ライフスタイルに関わる概念の抽出に有用であるとの結果を得た。ただし,ライフスタイル全般を網羅するためには,今後,サンプルを増やすことが必要である。また,将来必要とされる心豊かなライフスタイルを実現するサービスや低環境負荷な技術やサービス,社会システムとのマッチングを行いつつ,新たな発想を得ることの支援などに用いるためには,本研究で得た概念から,ライフスタイルの標準語彙を構築する必要がある。

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