環境科学会誌
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一般論文
気候変動リスク認識に関する世界および日本の企業業種別分析
亀山 康子 佐々木 実紀
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2020 年 33 巻 6 号 p. 159-171

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抄録

異常気象の増加等,気候変動影響と考えられる事象による被害を軽減する備えとして,適応策の重要性が指摘されている。企業も自社にとって重要なリスクを見極めそれに備えることが,企業の総合リスク管理につながり,企業価値を高めるといえる。しかし,業種によって懸念すべきリスクは異なると想定されるにもかかわらず,そのような業種ごとの違いに注目した研究はない。そこで,本研究では,気候変動に関して毎年アンケート調査を実施している非政府組織CDPのデータを活用し,業種ごとに,世界および日本の企業がいかなる気候変動影響を懸念しているか,またそのように認識する背景について,単純集計およびトピックモデルを用いて分析した。

結果,まず選択式回答の単純集計では,(1)世界で最も懸念していたリスクは「急激かつ集中的な降雨や干ばつ」であり,特に鉱物関連の素材産業や食品,保険業界が懸念している,(2)「サイクロン(台風等)」への懸念は,日本企業の割合が世界より高く,特に運輸やエネルギー産業の割合が高い,(3)「企業の評判」低下も多くの企業がリスク認識を有していたが,世界では金融・保険業が最も高い認識を示したのに対して,日本では情報通信や素材(木材その他)がより多く懸念を示している等の特徴が示された。

次に,自由記述回答で用いられた単語をトピックモデルを用いて分析したところ,業種ごとに異なる気候変動影響をリスクとして懸念している背景にある考え方を抽出することができた。世界と比較して日本企業の回答からは「操業や業務を行っている地域やその顧客のいる地域への影響」「事業投資リスク」等のトピックの代わりに,規制を受ける側としてのリスクに関するトピックが抽出された点に特徴があった。

以上,企業アンケート回答データを利用し,異なる種類の気候変動影響に対する業種ごとのリスク認識の違いと,相違が生じる背景にある考え方の違いを示すことができた。

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