環境科学会誌
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一般論文
水・エネルギーネクサスに対する学際・超学際的アプローチの成果と課題—別府市における温泉・観光と地熱発電に関するシナリオプランニングの事例—
増原 直樹 馬場 健司
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2021 年 34 巻 2 号 p. 66-79

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抄録

本研究は,水・エネルギーネクサスに関する地域課題について,シナリオプランニング手法を適用し,課題解決に向けた研究者の学際的アプローチとステークホルダー(SH)間の超学際的アプローチの成果を分析する。具体的な研究の目的は,地域資源とエネルギー資源に関与する様々なSH間の合意形成をめざすために,学際的・超学際的アプローチにおいて,研究者間,あるいはSH間の認識の共有状況とその要因を考察することである。

研究の流れは,SH分析及びSH会議の成果を研究者が理解した後,デルファイ法を用いて73の因果関係の連鎖(ストーリー)について研究者へのアンケート調査を実施し,研究者間の認識共有状況を分析した。調査結果を受け,別府市の温泉・観光と地熱資源等に関して,3通りの将来シナリオを2018年に構築し,さらに,将来シナリオ案を2019年に開催したワークショップ参加者と確認し,SH間の認識共有状況を明らかにした。

研究者間の認識については,別府温泉の魅力である温度や泉質の多様性に関するストーリーに関して,確実性や重要性の観点から評価が分かれる(共有されない)傾向があった。他方,別府市におけるエネルギーのセキュリティ確保や日本人の高齢化などの「別府市とその外部との関係」に係るストーリーについては,研究者間の認識が共有されやすい傾向があった。

超学際的アプローチの成果として,研究者の認識が分かれていた別府温泉の魅力に関するストーリーについて,別府温泉を利用するSHが感じている魅力を聞くことで,研究者だけでは成し得なかった将来シナリオ確定が可能となった。また,SHの多様な意見を研究者が理解することと研究者のデルファイ調査結果に基づいた将来シナリオをSHと研究者が議論することで,双方向の学習プロセスが進展した。

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