2022 年 35 巻 2 号 p. 49-58
迅速かつ網羅的に濃度把握が可能なターゲットスクリーニング分析法(スクリーニング分析法)の水質検査手法としての有用性を検証するために,169種の農薬について実際の水道原水および浄水試料を対象に,ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)を用いたスクリーニング分析法を適用し,その定量精度を評価した。その結果,標準検査法で得られた定量値との濃度比は0.14~2.8となり,検査対象の農薬類の絞り込みや,検出濃度のオーダーを把握するには十分適用できる定量精度を持つ方法であることが明らかとなった。また,分析装置が汚れている場合や検出器が劣化している場合,その定量値の誤差が大きい農薬があり,スクリーニング分析法を行う場合には装置の状態管理が重要であることがわかった。さらに,スクリーニング分析法で取得したデータをレトロスペクティブ分析することにより,データベースに登録されていない農薬類を同定・定量できることがわかった。このことより,スクリーニング分析法は検査法として簡便に農薬類を測定できるだけでなく,そのデータを追加解析することにより,未知の化学物質の存在状況を把握することにも利用できることが明らかとなった。