環境科学会誌
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一般論文
公衆衛生政策における公的検査体制と規制的客観性の相互構築—国内BSE検査を事例に—
栗本 温子
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2024 年 37 巻 2 号 p. 43-52

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抄録

近年,野生動物の生息地域の広がりによって人獣共通感染症の発生が懸念されている。公衆衛生政策においては,各法令に基づく公的検査体制が重要な役割を担っている。しかし,これまで公的検査に関する政策執行面はあまり論じられてきていない。

一方,生物医学領域における新たな客観性として,規制的客観性という考え方が議論されている1)。この概念は,エビデンスの共同生産を重要視するもので,臨床医療の客観性に帰結するものとされている。これに対し本稿では,公衆衛生分野における公的検査について,2001年から開始された国内の牛海綿状脳症(BSE)検査における規制的客観性のあり方を検証した。その結果,本事例では,科学的信頼性の他に,執行可能性(食肉流通を勘案した迅速性,作業の簡便さ,品質管理等)が考慮されつつ,規制的客観性が構築されていることが明らかになった。先行研究では,規制的客観性は限定されたアクター間を想定して構築されるものであったが,本事例(公的検査)の場合では,行政,消費者,生産者といったより広いアクターへの影響を想定することが不可避であったと考えられる。こうした点からも,規制的客観性は執行可能性が考慮されて構築されているといえる。

また,検査体制構築の場面では,その時点で利用可能な資源や技術が経路依存的に活用され,さらに技術のロックインが起きていた。新技術の導入には,検出感度の画期的改善だけでなく,検査キットの市場が必要であり,感染症が清浄化する中では,検査体制を再構築するインセンティブが生じないことが窺える。

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