環境科学会誌
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森林生態系内における窒素循環の空間的異質性
廣部 宗
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2003 年 16 巻 3 号 p. 227-232

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抄録

 森林生態系における窒素の循環は気候条件などによって大きなスケールでの空間的異質性を示すだけでなく,地形などによって小さなスケールでも空間的異質性を示す。我が国の森林は大部分が急峻な傾斜地に存在し,地形による窒素循環の空間的異質性が顕著である。温帯域の森林生態系では林床有機物層(A0層)の堆積型に斜面上の位置による違いがみられ,尾根に近い斜面の上部ではF・H層が厚く発達したA0層のモル型・モダー型であるが,谷に近い斜面の下部ではL層を中心とした薄いA。層のムル型である。斜面に沿ったAO層の堆積型の変化に対応して,窒素蓄積の場所や量,および内部循環量が変化するだけでなく,土壌中の微生物による窒素代謝特性も変化する。斜面全域を対象とした詳細な調査により,A0層の堆積型や微生物による窒素代謝特性は斜面に沿って徐々に変化するのではなく,斜面上のある場所から急に変化することが明らかとなった。また,微生物による窒素代謝特性の違いには,pHや水分などの無機的環境条件と微生物の資源となる有機物の質(微生物に対する炭素と窒素の相対的利用可能性)の斜面に沿った変化によって決定されていることが示唆された。このような森林生態系内における窒素循環の空間的異質性は,系外部からの窒素負荷に対して系内部で場所によって反応が異なる可能性を示しており,自然生態系への窒素負荷問題を考える際には小さなスケールでの空間的異質性を考慮していくことが必要と考えられた。

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