環境科学会誌
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森林流域の窒素流出における水文プロセスの影響
大手 信人
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2003 年 16 巻 3 号 p. 233-238

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抄録

 窒素循環は森林生態系の成立,維持機構を語る上で最も重要な循環過程の一つであり,流域からの窒素流出の変動には生態系内の養分循環の状態を知る重要な情報が含まれる。本論では,窒素流出の時間的変動への流域の水文プロセスの影響を,既往の研究をレビューしつつ検討した。北東アメリカと日本の流域との比較から,渓流水中の窒素濃度の季節変動に明確な違いがあることが指摘された。特に夏季のNO3-濃度は北東アメリカでは他の季節に比べて減少するのに対し,日本では増加する場合が多い。この相違は,北東アメリカでは夏季植物の窒素吸収と蒸散活動による乾燥で,排水系ヘのNO3-流出が減少するのに対して,日本では夏季の多雨・高水条件が,土壌からのNO3-流出を促すことがより強く影響することを示唆している。滋賀県南部の森林流域における観測結果は以下の2つの要因によって渓流水中のNO3-濃度の季節変化が規定されることを例示するものであった。1)流域内部においてNO3-が主にどの部位で生産されるかという,NO3-の起源の空間配置,2)それを渓流へ輸送する流出水の経路が季節変化すること。これらのことは,流出NO3%度の時間変動のメカニズムを一般化するには,生態系内部の窒素の循環や形態の変化と同様に水文過程の時間変動に関する内部的な情報が必要不可欠であることを示している。

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