環境科学会誌
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ライフサイクル影響評価と統合評価モデルを融合したシミュレーション分析
時松 宏治伊坪 徳宏黒沢 厚志小杉 隆信八木田 浩史坂上 雅治
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2006 年 19 巻 1 号 p. 25-36

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抄録
 本研究は地球環境問題のなかでも主要なものとされる,地球温暖化,酸性化および土地利用・土地利用変化による外部不経済(外部コスト)を内部化し,2100年までの世界全体の最適経済成長のシミュレーションを試みようとするものである。地球温暖化による外部コストをトップダウン的に表現して内部化した研究例は存在するが,本研究では,ライフサイクル影響評価に基づくボトムアップ的に求められた,地球温暖化に限らない地球環境の外部コストを内部化することで,経済成長との統合評価を試みた。 日本版被害算定型ライフサイクル影響評価(LIME: Life cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)では,現在の日本における環境影響による被害を防ぐための限界支払い意思額(MWTP: Marginal Willingness To Pay)を推計することで,例えば円/kg・CO2の単位を有する経済評価係数を提示している。この係数には,第一次接近としての環境の外部コスト,あるいは何らかの環境保全施策を行わない状態における環境被害の社会的費用が含まれるものと解釈できる。本研究ではこの経済評価係数を元に,世界および将来時点の経済評価係数を推計した。その上で,マクロ経済エネルギーシステムと土地利用,および温室効果ガス排出と気候変動のリンケージを扱う統合評価モデル(GRAPE: Global Relationship Assessment to Protect Environment)から内生的に求められる,温室効果ガスとSOxの排出量および土地利用・土地利用変化の面積に対し,経済評価係数を乗じた値をGDP(Gross Domestic Product)から控除することにより,外部コストを内部化した最適経済成長のシミュレーションを行った。 シミュレーションの結果,現在から今世紀末に至るまで,世界全体では外部コスト全体のうち温室効果ガス排出に伴う地球温暖化が約10%~40%を占め,残りのほぼ全てが土地利用・土地利用変化に伴う生物多様性の減少と潜在一次生産量の利用に起因する外部コストになるという計算結果が得られた。これにより,土地利用・土地利用変化も,外部コストの観点から地球温暖化と同程度に重要な地球環境問題となることが示唆された。また,外部コストを内部化することにより,内部化しない場合と比較してGWP(Gross World Product)は数%減少するが,土地利用やエネルギーシステムにおける一種の適応行動により,長期的には森林保全や化石燃料資源の節約につながることが示唆された。
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