環境科学会誌
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淀川流域圏における森林生態系サービスの多元的評価:現在および管理シナリオに基づいた将来
大場 真町村 尚井上 義雄冨士 剛志増本 藍
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2007 年 20 巻 3 号 p. 233-246

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抄録

 淀川流域圏における森林生態系サービスの多元的評価と将来予測を行った。淀川流域圏に属する森林情報を把握するために,森林簿と林班地図を収集し,流域圏森林データベースを構築した。このデータベースを利用した,森林バイオマスモデル,生物多様性評価スキーム,林業経済モデルを構築した。現状(2005年)評価に加え,1975年における過去推定と2035年における将来予測をおこなった。将来予測においては,現状を維持するシナリオに加えて,特定の森林生態系サービスを強化するシナリオ(水土保全,生物多様性保全,二酸化炭素吸収促進)を適用した結果も予測した。現状を維持するシナリオでは,バイオマスや土壌炭素はこのまま増加傾向にあるものの,森林更新の割合が低いため,流域圏森林全体が高齢化することが示された。また森林の成長速度が遅くなるため,二酸化炭素吸収量が低くなった。水土保全シナリオでは,広葉林の植樹によって土壌炭素蓄積が増加した。しかし,林種が同質化されるため生物多様性が保たれない可能性が示された。生物多様性保全シナリオでは,様々な種類の森林へと樹種転換するため,流域全体の生物多様性が向上することが見込まれた。また現存の針葉林を伐採するため,その収入によって流域全体の林業経済収支もそれほど悪化しないことが示された。二酸化炭素吸収促進シナリオでは,積極的なスギの植林によって,流域全体の二酸化炭素吸収が2005年の約2割程度の減少で済むことが示された。しかし伐採収入が減少することや管理コストによって,流域全体の林業経済収支は悪化した。この損益を排出権取引などの価格と比較した。本研究は多様な森林生態系サービスを,部分的ではあるが過去から将来にかけて多面的に評価し,その価値の相補性の一端を定量的に示した。

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