環境科学会誌
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燃料電池の社会的受容を規定する心理的要因に関する研究
松本 安生高梨 啓和上村 芳三甲斐 敬美
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2008 年 21 巻 6 号 p. 435-449

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抄録

 科学技術の受け入れに対する人々の態度は社会的受容と呼ばれ,リスク認知とベネフィット認知という2つの主観的な心理的要因に基づいて決定されると考えられる。地球温暖化対策として実用化への期待が高い燃料電池や水素燃料の普及を社会の合意のもとで進めていくためには,人々が燃料電池や水素のリスクとベネフィットをどのように認知し,その受け入れを決定しているのかを明らかにしてくことが必要だが,こうした視点からの研究はこれまで日本ではほとんどなされてきていない。そこで,本研究は一般市民の燃料電池のリスクとベネフィットに対する主観的な認知と社会的受容との関連について明らかにすることを目的として行った。 地域内に水素ステーションが設置され,実証実験が行われている相模原地域及び屋久島地域において,無作為抽出した一般市民に対するアンケート調査を行い,仮説モデルの検証を行った結果,次のような結論が得られた。1)水素の「環境性」や燃料電池の「将来性」については肯定的な認知が多い一方で,燃料電池の「経済性」については否定的な認知が多かった。また,水素の「安全性」については肯定的な認知と否定的な認知がほぼ同じ程度で意見が分かれていた。2)燃料電池の地域への導入意向は両地域ともかなり高いが,他の自然エネルギーに優先してまで導入したいと考える回答者は多くはなかった。3)仮説モデルで仮定したように,燃料電池の知識と水素や燃料電池に対する認知とは関連があり,さらに水素や燃料電池に対する認知と燃料電池の社会的受容とも関連があることが検証された。4)燃料電池の社会的受容を決める要因として,水素の「安全性」に対する認知や燃料電池の「経済性」に関する認知といったリスク認知よりも,水素の「環境性」に対する認知および燃料電池の「将来性」に対する認知といったベネフィット認知がより重要な役割を果たしていることが明らかになった。

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