抄録
ヒトの上下口唇間での触覚, 圧覚といった口唇感覚情報が咀嚼運動の制御に何らかの役割を持つか否かについて調べる目的で, 成人男子8名を被験者とし, 上下口唇赤唇部を表面麻酔し, 麻酔の前後で咀嚼運動に変化が見られるか否かを検討した.被験食品としては, チューインガムを用い以下に分ける各ステージにおいて左噛み, 右噛みの順番でそれぞれ30ストロークずつ咀嚼させ, その際の下顎運動をMKG (Model K-5) を用いて記録した.ステージの分類としては, ステージ1を上下口唇の麻酔前, ステージ2を麻酔直後, ステージ3を麻酔10分後, ステージ4, 5, 6を麻酔20, 30, 40分後とした.解析方法は, 各ストロークの最大開口距離, 最大側方移動距離, サイクルタイムを計測し, 各ステージにおけるそれぞれの平均値を求めた.そして, ステージの時間的推移に伴うこれらのパラメータの変化に関して比較, 検討した.その結果, ステージの時間的推移に伴う最大開口距離の変化に一定の傾向が認められた.すなわち, 8名の被験者で左右ガム咀嚼のいずれにおいても, 麻酔後ステージ2, あるいはステージ3において, その値が最小となるように減少し, 時間と共に増加し麻酔前の値に戻る傾向を示した.よって, ヒトにおいては, 上下口唇間での触・圧感覚というものが, 咀嚼運動における開口量の調節に関与していることが示唆された.