2021 年 36 巻 p. 5-20
現在の社会調査をめぐる状況は、大規模な量的調査のデータを収集したアーカイブが構築され、先端的な計量モデルが適用される二次分析が普及している一方で、数少ない当事者の主観的な経験を再構成する質的調査の両極端に分かれているようにみえる。そこでは、かつて農村・地域調査でおこなわれていたような、ある地域をつぶさに調査してまわり、実態を明らかにしようとする「実態調査」は目立たないものとなっている。しかし、各大学が立地する地域にねざした社会調査はいまでも地道におこなわれていることはあまり知られていない。大阪では、工業化の時代から大阪を対象とした自治体社会調査が実施され、それは戦後の社会病理学調査に引き継がれてきた。とくに関西の社会学者たちは、共同研究として大阪社会学研究会を組織し、大阪を拠点とした社会調査を実施してきた。大阪の社会病理学研究には時代的な限界があったが、これまで現代の都市・社会問題を課題とする様々な実態調査が積み重ねられてきた。
本稿では、主に研究会メンバーであった故土田英雄が残した【土田英雄資料】 をもとに、大阪社会学研究会のおこなった調査を再構成し、戦後から現代にいたるまで大阪の社会調査がどのようにおこなわれてきたのか、そして今後の展開について考えたい。