2018 年 101 巻 p. 11-36
本研究の目的は、現代日本における地位不安、すなわち社会経済的地位についての不安の特徴を計量的に明らかにすることである。地位不安は、不平等が人びとの健康や問題行動に影響する際の媒介変数として社会疫学で近年注目されており、社会学的な応用の価値が高いと考えられる。しかし、地位不安がどのような性質を有しているかについて、日本での実証研究の蓄積は乏しい。本稿では一九九五年と二〇一五年に実施された全国規模の社会調査データを用いて地位不安(地位競争不安、地位喪失不安、現状維持指向)と社会経済的地位の関係を分析した。分析の結果、(一)地位不安の分布は二十年間で大きく変化していない、(二)地位不安と社会経済的地位の関連は総じて弱い、(三)地位不安と社会経済的地位の関連も二十年間で大きく変化していない、の三点が明らかになった。これらの結果は、二〇〇〇年代後半以降の格差・不平等問題への社会的関心の高まりを考えると予想外であり、社会経済的地位と地位不安を結びつけるメカニズムをより詳しく検討することが必要である。