社会学研究
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論説
雑誌『家の光』にみる家事テクノロジーシステムの成立
高度経済成長期における洗濯機の普及を背景として
小林 博志
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2018 年 102 巻 p. 123-146

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抄録

 本稿は、農協婦人部の機関誌的存在であった雑誌『家の光』を通して、農村での家事テクノロジーシステムの成立について考察する。家事テクノロジーシステムとは、工業製品で構成された家事労働のための道具集団を意味する。水道普及率の低さから農村に残存した「水汲み」という家事労働では、戦前からの農事電化を背景に普及した配電システムを前提に、一九五〇年代中頃から導入された電動ポンプが、新たな給水システムを成立させる。この成立を前提に一九六〇年代初めから普及が加速する洗濯機の導入により、新たな洗濯システムが成立する。既存のシステムを前提とした「モノ」の導入が新たなシステムを成立させることで、次の「モノ」の導入を促す。このシステム成立の連鎖により「モノ」が普及していく。規格化された工業製品が、都市と同様に農村にも普及することで、双方の生活者の中に「世間の標準」という共通の生活意識が形成される。それは、都市と農村が共有しうる「人並み」という生活水準意識の形成であり、今日の格差問題を「問題」として認識する原型となる。

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© 2018 東北社会学研究会
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