2018 年 102 巻 p. 65-92
日本の有機農業運動研究は、生産者と消費者による取引と信頼の規範を明らかにすることをつうじて、有機農業が農法の変更であるのみならずライフスタイルに対する挑戦であったことをあきらかにしてきた。オルタナティブ・フード・ネットワークス研究も同様の問題関心をもち、Community Supported Agriculture(CSA)や農産物直売所、地産地消などの取り組み事例をもとに、食の工業化の問題点を浮き彫りにしてきた。しかし、これらの研究では野菜や穀物を中心とし、生産者と消費者が直接にかかわりあう実践のみに注目が集中してきた面がある。だが、生産者から消費者に直接取引される経路は部分的であり、野菜や穀物などを生鮮品として消費する機会もまた限定的である。「農と食」にかんする技術や経路の変化をとらえるためには、フード・システムの他の対象に対しても関心を払うべきではないか。
本稿は、岩手県旧山形村の日本短角牛生産農家を中心とした共同購入グループの活動に焦点を当て、とくに調理師、精肉業者、加工業者などフード・システムにかかわる専門的アクターが活動の展開をサポートしていることを明らかにした。「農と食」にかかわる社会運動の見取り図とその変化をとらえるためには、生産者および消費者だけではなく、関連する専門的アクターへの調査が必要である。