社会学研究
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論説
原発被災地において農地の外観を保つ理由
福島県南相馬市X集落の事例
庄司 貴俊
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キーワード: 原発事故, 農地, 働きかけ
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2019 年 103 巻 p. 165-187

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抄録

 本稿では、原発被災地で農業をやめた人びとが、農地に対して継続的に働きかけ、農地の外観を保とうとする理由を明らかにする。本稿が対象とした集落の農家は、原発事故の影響により、農業から離脱せざるをえなくなった。その上、人びとは再開の意志すらもっていない。けれども、生産活動をしないと決めた農地でも、農家は農地を荒らさないようにと、その手入れを続けている。その背景には、農地を荒らすことなく、互いに認め合うことで、集落の農家たちと同じ立場に居続けたいとする考えがあった。以上から、農地の手入れを続けその外観を保つことは、事故前の社会関係を取り戻す行為になっていると考えられる。集落内における社会関係という視点から考えた場合、人びとが事故前の生活を取り戻す上で、農地の外観を保つことは重要な要素であることが、本稿では明らかになった。

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© 2019 東北社会学研究会
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