社会学研究
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論説
新中産階級ムスリム女性の労働と家事役割をめぐる意識
――マレーシアの私立大学の教員を事例に――
安達 智史
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2020 年 104 巻 p. 175-199

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抄録

 本稿の目的は、女性の労働市場への参加と家事役割の双方が強調される現代マレーシアにおいて、マレー系女性がいかにその「二重の役割」と向き合っているのかを明らかにすることにある。そのため、近代化とイスラーム化の強い影響下にある「新中産階級」に該当する大学教員を対象とし、労働と家事をめぐる意識の分析をおこなった。その結果、以下の点が明らかとなった。彼女たちは高等教育の重要性を強調するが、それは労働市場への参加だけでなく、子どもの教育や家族の運営といった家庭内での女性役割と結びつけられていた。また、家族をユニットとしてとらえることで、性別役割の強調だけでなく、その柔軟な運用をも可能にしていた。加えて、均衡の原則に基づく配偶者選択、教育を通じた夫との対等なコミュニケーション、時間的フレキシビリティをもつ職業選択は、イスラームの価値や家事役割を放棄することなく、労働市場への参加を実現する戦略として理解することができる。

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© 2020 東北社会学研究会
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