本稿では、社会運動と民主主義との関係を論じている。主に民主主義の研究者の議論に焦点を絞り、彼らが社会運動の役割をどう見ていたのかを明らかにしていく。
一節では、民主化研究の古典を検討しながら、その中で社会運動という行為者の民主化に果たす役割が重視されていなかったことを論じる。二節では、政治学と社会学の分業化の中で、民主主義研究と社会運動研究の分離が生じたことに触れた後、一九九〇年代以降、モダニティの構造変容とそれに伴う政治の再定義の状況の中、二つの研究領域の再統合が進んでいることを見ていく。
三、四節では、一九九〇年代以降の民主主義論者の中でもっとも意識的に社会運動を位置づけてきた一人であるアイリス・マリオン・ヤングのテキストを取り上げる。彼女は、社会運動が公式の政治制度の外側に政治参加の場を提供すると同時に、その場において政治的コミュニケーションの手段を多様化して熟議的な民主主義の実現に寄与するという形で、社会運動の役割を位置づけていた。
五節では、社会運動内部の民主主義と熟議システム論という、このテーマに関する最新の研究動向を概観しながら、社会運動と民主主義というテーマの今後を展望する。
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