社会学研究
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104 巻
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特集 社会運動研究の新基軸を求めて
  • 青木 聡子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 104 巻 p. 1-8
    発行日: 2020/02/21
    公開日: 2021/09/24
    ジャーナル フリー
  • 長谷川 公一
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 104 巻 p. 9-36
    発行日: 2020/02/21
    公開日: 2021/09/24
    ジャーナル フリー

     一九六八年と二〇一八年の五〇年間の社会運動の変化と連続性をどのように捉えるべきだろうか。韓国と台湾の場合には、独裁体制から民主化運動へ、複数回の政権交代へ、近年の脱原発政策への転換の動きなど、きわめてダイナミックな変化が見られる。アメリカ・フランス・ドイツなどでも、一九六八年前後の学生運動は、その後の政治のあり様に大きな政治的影響力を持っている。
     しかし日本の場合には、社会変革的な目標達成を志向するタイプの運動は、政治的機会構造の閉鎖性や社会運動の資源動員力の〈弱さ〉、フレーミングの難しさなどに規定されて、政治的目標達成に成功しえた事例に乏しい。政権交代も少なく、しかも政権交代にあたって社会運動のはたした役割は非常に小さい。社会運動出身者の政治リーダーも乏しい。
     日本の社会運動研究は、このような現実を直視し、いかに克服すべきかを社会学的に提示していく必要がある。

  • ――一九六八〜一九六九年東大闘争から考える――
    小杉 亮子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 104 巻 p. 37-61
    発行日: 2020/02/21
    公開日: 2021/09/24
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、世界的な社会運動の時代としての〝一九六八〟をめぐる議論のなかで運動の脱政治化が起きていることを指摘し、脱政治化を回避しうる社会運動論の方向性を探究することにある。日本の〝一九六八〟にかんする議論では、新しい社会運動論が硬直的な社会運動史観として定着したことによる運動の政治的次元の縮減と、マクロな社会構造から個別の社会運動を論じるという、新しい社会運動論の性格に由来する運動の脱政治化が生じていた。そこで本稿では、〝一九六八〟の社会運動を脱政治化させずに、社会運動が敵手とのあいだにつくりだす敵対性と、そうした敵対性を創出する運動参加者の主体性を十分に描き出すひとつの方法論として、生活史聞き取りを提示する。具体的には、生活史聞き取りにもとづく〝一九六八〟分析の一例として、一九六八〜一九六九年東大闘争の分析を示す。東大闘争では、一九六〇年代の社会運動セクターの変動を受け、望ましい学生運動のありかたをめぐって、政治的志向性を異にする学生のあいだで敵対性がつくりだされた。学生たちは社会主義運動の可能性と限界をめぐって厳しく対立し、その対立は予示的政治と戦略的政治という運動原理が対立する形をとった。

  • ――名古屋新幹線公害問題を事例に――
    青木 聡子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 104 巻 p. 63-89
    発行日: 2020/02/21
    公開日: 2021/09/24
    ジャーナル フリー

     本稿では、長年にわたり展開されてきた住民運動、なかでも名古屋新幹線公害問題をめぐる住民運動を事例として取り上げ、運動を続けざるを得ない現状を検証し、運動の終息に向けた課題を検討する。名古屋新幹線公害問題では、国鉄(当時)との和解成立(一九八六年)から三十年以上を経た現在も、原告団・弁護団が活動を続けている。こうした住民運動の長期化によってもたらされたのは、運動の負担が、原告団のなかでもいまだ運動に従事し続ける少数のコアメンバーに集中するという事態である。JR側の担当者が数年で入れ替わるのに対して、原告団側は、その数が減りはしても、増えることも新しいメンバーと入れ替わることもない。原告団とJRとのあいだには、部分的な信頼関係ができつつあるものの、原告団にとってJRはいまだに、「何しよるかわからん」相手でもあり、住民運動をやめるわけにはいかない。この長期化した住民運動の幕引きには、行政による積極的な介入が必要であり、本稿の事例では、原告団が描く幕引きのシナリオは、住民運動が果たしてきた役割を名古屋市が担うようになるというものである。だが、実際には名古屋市による積極的な取り組みは特定のイシューにとどまり、継続性も懸念される。発生源との共存を強いられる人びとの苦痛や負担を和らげ、少数の住民に負担が集中する住民運動を軟着陸させるためには、いまだ制度化されざる部分の制度化が必要である。

  • ――再帰的なローカルナレッジとしての社会運動――
    町村 敬志
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 104 巻 p. 91-117
    発行日: 2020/02/21
    公開日: 2021/09/24
    ジャーナル フリー

     社会運動は何かを「変える」存在であった。だが社会学における社会運動論は、「なぜ運動は起きたのか」に比べ、「何を変えるのか」については十分な関心を寄せてこなかった。構造への接続を念頭に置きながら、社会運動の「効果」という論点を深めようとする場合、次の三つのアプローチの可能性がある。第一に、社会的争点の構造的布置とその変容を映し出すものとしての社会運動、第二に、マクロ-メゾ-ミクロを接合させるエージェントとしての社会運動、第三に、時間を超える構造化された効果としての社会運動である。本論が確認したことは、社会運動は、個人や親密圏のような「ローカルな局域」の水準にまず基礎づけられることで、むしろ、時間的幅をもつ構造的効果を有することができるという点であった。社会運動は、再帰的なローカルナレッジの担い手として、主体と構造の間を連接していく。

  • ――社会ネットワークと集合的記憶を用いた考察――
    野宮 大志郎
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 104 巻 p. 119-143
    発行日: 2020/02/21
    公開日: 2021/09/24
    ジャーナル フリー

     構造論的アプローチと行為論的アプローチは、ともに社会運動現象の解明に利用される接近方法である。これらのアプローチは、社会的構築物からの視点と個人や活動家の視点として分類され、現在まで、対局にあるものとして議論されてきた。またそれゆえに二つのアプローチの「統合」の可能性についても、しばしば議論がなされてきている。本稿では、この二つのアプローチを繋ぐ方法として「融合」を提案する。そして、融合がなされうる研究方法として、社会ネットワーク論からの接近と集合的記憶概念を用いた接近の二つを提案する。

  • 安藤 丈将
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 104 巻 p. 145-173
    発行日: 2020/02/21
    公開日: 2021/09/24
    ジャーナル フリー

     本稿では、社会運動と民主主義との関係を論じている。主に民主主義の研究者の議論に焦点を絞り、彼らが社会運動の役割をどう見ていたのかを明らかにしていく。

     一節では、民主化研究の古典を検討しながら、その中で社会運動という行為者の民主化に果たす役割が重視されていなかったことを論じる。二節では、政治学と社会学の分業化の中で、民主主義研究と社会運動研究の分離が生じたことに触れた後、一九九〇年代以降、モダニティの構造変容とそれに伴う政治の再定義の状況の中、二つの研究領域の再統合が進んでいることを見ていく。

     三、四節では、一九九〇年代以降の民主主義論者の中でもっとも意識的に社会運動を位置づけてきた一人であるアイリス・マリオン・ヤングのテキストを取り上げる。彼女は、社会運動が公式の政治制度の外側に政治参加の場を提供すると同時に、その場において政治的コミュニケーションの手段を多様化して熟議的な民主主義の実現に寄与するという形で、社会運動の役割を位置づけていた。

     五節では、社会運動内部の民主主義と熟議システム論という、このテーマに関する最新の研究動向を概観しながら、社会運動と民主主義というテーマの今後を展望する。

論説
  • ――マレーシアの私立大学の教員を事例に――
    安達 智史
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 104 巻 p. 175-199
    発行日: 2020/02/21
    公開日: 2021/09/24
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、女性の労働市場への参加と家事役割の双方が強調される現代マレーシアにおいて、マレー系女性がいかにその「二重の役割」と向き合っているのかを明らかにすることにある。そのため、近代化とイスラーム化の強い影響下にある「新中産階級」に該当する大学教員を対象とし、労働と家事をめぐる意識の分析をおこなった。その結果、以下の点が明らかとなった。彼女たちは高等教育の重要性を強調するが、それは労働市場への参加だけでなく、子どもの教育や家族の運営といった家庭内での女性役割と結びつけられていた。また、家族をユニットとしてとらえることで、性別役割の強調だけでなく、その柔軟な運用をも可能にしていた。加えて、均衡の原則に基づく配偶者選択、教育を通じた夫との対等なコミュニケーション、時間的フレキシビリティをもつ職業選択は、イスラームの価値や家事役割を放棄することなく、労働市場への参加を実現する戦略として理解することができる。

  • ――学校平均学力と学校の社会経済的特性に着目して――
    鳶島 修治
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 104 巻 p. 201-225
    発行日: 2020/02/21
    公開日: 2021/09/24
    ジャーナル フリー

     本稿では、二〇一五年に実施された「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の日本調査データを用いて、小学四年生の子どもをもつ母親の教育期待の規定要因について検討した。その際、教育期待形成における「準拠集団」としての学校の影響に注目し、学校平均学力と学校SEC(保護者の大卒割合)の効果を検証した。母親の教育期待(子どもに大学進学を期待しているかどうか)を従属変数とするマルチレベル分析の結果として、子どもの学力が高いほど母親は大学進学を期待しやすいこと、母親は子どもが女子の場合よりも男子の場合に大学進学を期待しやすいこと、母親または父親の学歴や職業的地位が高いほど母親は子どもに大学進学を期待しやすいことが確認された。また、母親の教育期待に対する学校平均学力の効果については明確な結果が得られなかったものの、学校SECの効果に関しては、子どもが女子の場合には学校単位でみた母親の大卒割合が、子どもが男子の場合には学校単位でみた父親の大卒割合がそれぞれ有意な正の効果をもっていた。この結果は、子どもと同じ学校に通う児童の保護者たちが母親の教育期待形成における準拠集団としての役割を担っていること、同時に、母親の教育期待形成における準拠集団の選択が子どもの性別という要因に依存していることを示唆するものである。

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