本稿の目的は、家族に犯罪者をもつ者の刺青(入れ墨・タトゥー)を身体に刻むという行為とそれに関連する語りから、家族に犯罪者をもつ者自身のアイデンティフィケーションにおける脱スティグマ論の可能性を見出すことである。スティグマ論において十分に論じられてこなかった「スティグマの身体化」について、〈ダブル・ライフ〉の概念を踏まえて考察を行う。具体的には、スティグマの身体化の実践として、刺青(入れ墨・タトゥー)を身体に刻むという行為と、そこに関わる語りを紹介し〈ダブル・ライフ〉の理論的観点から再解釈する。そしてこの作業を通じて脱スティグマ論を構想していくことを目指す。 二名のインタビュー調査を分析した結果、〈家族を絶つ〉および〈家族を刻む〉という二つの概念が抽出された。これらの結果は、「家族が罪を犯した物語」を身体化する実践であると同時に、自己と自己の関係をめぐる〈ダブル・ライフ〉がもたらすサイクリックな関係からの脱出を指向する実践であることが明らかになった。今後は、役割や役柄を媒介しないまま、人間関係の構築に成功する事例を発見し、それらの相互行為の動態や自己の構成を理論的に把握して行くことが求められる。