社会学研究
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特集 スティグマの可視性/不可視性と権力作用
  • 木村 雅史
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 107 巻 p. 1-11
    発行日: 2022/12/26
    公開日: 2024/02/26
    ジャーナル フリー
  • 〈事情通〉がくつがえす不確実性と不可視性
    金 春喜
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 107 巻 p. 13-47
    発行日: 2022/12/26
    公開日: 2024/02/26
    ジャーナル フリー

     フィリピンから来日して間もなく、学校で「発達障害」の烙印を押されたきょうだい。特別支援学級や特別支援学校に入り、障害児としての人生を歩むことになった。だが実は、きょうだいの周囲には二人を「発達障害」だと確信していた大人はいなかった。 二人が不確実で不可視のスティグマを背負うことになったのはどうしてか。本稿は、その理由や経緯を検証する。目的は、誰かが誰かを背負わなくてもよかったはずのスティグマの持ち主に仕立て上げる方法を可視化することだ。 きょうだいにかかわった教員、通訳、母親の計一〇人の大人にインタビューした。教員たちは、来日した瞬間から「外国人」というスティグマを背負う二人が抱える困難を、「発達障害」という新たなスティグマを引き受けることで得られる支援策(「二次的利益 secondary gain」)で乗り越える計画を立てていたとわかった。 作戦を推し進めた教員たちは、二人を親身に惜しみなく支える〈事情通〉の立場にあった。彼らはE. Goffmanが定義した通り「外国人」のスティグマを無効化するべく協力的に振舞ったが、いつの間にか役目は変わった。皮肉にも〈事情通〉は、善意で支援していた相手に新たな「発達障害」のスティグマを強硬に押し付ける権力者に成り代わっていた。特権集団(privileged group)の彼らは、関係性を一方的に調整できる自らの持つ優位性を振りかざす形で、当事者である外国人の子どもや母親を屈服させ、意を貫いた。

  • 「家族が罪を犯した物語」の身体化をめぐって
    宮崎 康史
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 107 巻 p. 49-72
    発行日: 2022/12/26
    公開日: 2024/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、家族に犯罪者をもつ者の刺青(入れ墨・タトゥー)を身体に刻むという行為とそれに関連する語りから、家族に犯罪者をもつ者自身のアイデンティフィケーションにおける脱スティグマ論の可能性を見出すことである。スティグマ論において十分に論じられてこなかった「スティグマの身体化」について、〈ダブル・ライフ〉の概念を踏まえて考察を行う。具体的には、スティグマの身体化の実践として、刺青(入れ墨・タトゥー)を身体に刻むという行為と、そこに関わる語りを紹介し〈ダブル・ライフ〉の理論的観点から再解釈する。そしてこの作業を通じて脱スティグマ論を構想していくことを目指す。 二名のインタビュー調査を分析した結果、〈家族を絶つ〉および〈家族を刻む〉という二つの概念が抽出された。これらの結果は、「家族が罪を犯した物語」を身体化する実践であると同時に、自己と自己の関係をめぐる〈ダブル・ライフ〉がもたらすサイクリックな関係からの脱出を指向する実践であることが明らかになった。今後は、役割や役柄を媒介しないまま、人間関係の構築に成功する事例を発見し、それらの相互行為の動態や自己の構成を理論的に把握して行くことが求められる。

  • 関節リウマチ患者のスティグマのパッシングと告白、そして、演じ分け
    山田 カオル
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 107 巻 p. 73-100
    発行日: 2022/12/26
    公開日: 2024/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、E. Goffmanのスティグマの可視性と不可視性をめぐる理論を参考に、「みえないスティグマ」をもつ女性関節リウマチ患者の印象操作を中心としたアイデンティティ管理のプロセスを明らかにするものである。 近年、慢性疾患患者を「生活者」として位置づけ、より患者が主体的に自己管理できるための支援が注目されている。直ちに障害が可視的ではない慢性疾患患者が日々のなかで経験するスティグマを捉えようとするとき、Goffmanがいうように、スティグマとは「明らかに属性ではなく関係を表現する言葉」(Goffman 1963a. 訳一六頁)であるならば、疾患による分類ではなく、疾患による生活上の困難が他者との相互行為に与える影響をスティグマの「発生帯」としてみていかなければならない。 本稿では、生活者として生きる慢性疾患患者が、社会参加と療養上の自己管理を両立する状況において、アイデンティティをどのように管理していくのか、すなわち、「みえないスティグマ」をもつひとのモラル・キャリアを慢性疾患患者の「発達段階」として解釈する。それらを通して、あらためて、病いとともにある生活者を社会のなかでどうとらえていくのかを考える機会としたい。

論説
  • 二〇世紀中葉における精神分析的解釈の出現と変容を巡る考察
    泉 啓
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 107 巻 p. 101-123
    発行日: 2022/12/26
    公開日: 2024/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、近親姦・性的虐待について「他者」の問題ではなく「われわれ」の身近な問題と説く言説の登場を、精神分析的諸文献のなかに辿ることで、従来のフェミニズム中心的な歴史説明に一定の修正を施すことである。一九七〇年代に性的虐待の「(再)発見」者となったフェミニストたちは、「隠蔽」的な知としてフロイトのエディプス・コンプレクス論を激しく批判した。ただし従来の二次研究では、フェミニストの主張に実践的に共鳴する余り、精神分析的近親姦論について単純化された説明が行われてきた。 本稿の検討対象となるのは、第一に、一九世紀後半から二〇世紀初頭にかけての児童救済運動における道徳主義的近親姦論、第二に、一九三〇年代における初期の精神分析的近親姦文献、第三に、一九五〇年代の女性批判的な文献、第四に新たに中流階級の父親加害者のパーソナリティ問題を主題化し始める一九六〇年代の精神分析的近親姦文献である。 以上の諸文献の解読作業を通して、児童への性犯罪が「われわれ」の身近で起きる問題であるというフェミニストが強調した論点が、一九七〇年代に初出のものでなく、精神分析的言説において既に用意されていたことが理解される。換言すれば、精神分析的近親姦論は、フェミニズム的解釈と別の語りを試みる者に訴求力のある、父親加害者の免責構造(母娘問題としての父娘姦)を含む解釈レパートリーとして依然現代性を有するのである。

  • 宮城県登米市の地域連携の事例から
    相澤 出
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 107 巻 p. 125-147
    発行日: 2022/12/26
    公開日: 2024/02/26
    ジャーナル フリー

     現在、日本全国で地域包括ケアシステムの構築が推進されているが、そのシステム構築の意味するところは、医療と福祉の連携を主軸とした地域内でのネットワークづくりである。こうした見地に立つ時、居宅をはじめとして、広く地域の現場でケアを手掛ける訪問看護ステーションの存在は、ネットワークの要として注目すべきものである。本稿では登米市のT訪問看護ステーションの実践を事例として、地域包括ケアシステムにおける訪問看護ステーションの機能について検討を行った。T訪問看護ステーションは、医療専門職不足に悩む登米市内の、さまざまな介護施設、学校など多様な現場でも積極的にケアを担っている。この実践は、地域の実情と課題を認識し、配慮しながら、T訪問看護ステーションが主体的に展開している取り組みでもあった。医療過疎地域において、現場レベルでの実践を詳細にみると、訪問看護ステーションが新しい地域連携を生み出し、既存の連携を強化する姿が浮かび上がってきた。今後の地域包括ケアシステムの構築や展開を研究するにあたり、特に医療過疎地域においては、訪問看護ステーションが有する機能や可能性に着目する必要がある。

  • 「防疫日誌」にみる戦争メタファーからの考察
    傅 昱
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 107 巻 p. 149-171
    発行日: 2022/12/26
    公開日: 2024/02/26
    ジャーナル フリー

     本稿では、研究対象地域の中国H社区において展開されたコロナ禍における社区づくり活動を記録した「防疫日誌」(二〇二〇年二月七日から三月六日まで)において、コロナ禍が戦争の一種のように理解される表現がつねに登場することに注目し、それらの戦争メタファーを分析した。それを通して社区づくりの特性および課題を考察した結果、戦争メタファーは「戦争モデル」でのコロナ禍対策を「社区」という草の根レベルに至るまで徹底させる装置として用いられる一方、社区ワーカーが社区づくりにおける自己の行動の組織化を通じて「戦争モデル」の創出・維持に重要な役割を果たしたことが明らかとなった。この結果を受け、今後の社区づくりの方向性について、自治組織としての性格という観点から展望した。

  • 「人種関係論」に着目して
    陳 默
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 107 巻 p. 173-196
    発行日: 2022/12/26
    公開日: 2024/02/26
    ジャーナル フリー

     ハーバート・ブルーマーのシンボリック相互作用論(SI)に関して、本稿では、行為者の「内的過程」を重視し、人間の主体性と積極性を強調する、といった従来のイメージとは異なる原像を求めて、ブルーマーの人種関係論に即した再評価とそのテーマに関するブルーマー自身による論考を検討した。そのことを通じて、集合行動論の「具体的な対象領域」の内実によって補いながらSIを再読する必要が明らかになった。つまり、ブルーマーの相互行為論が、非対称、支配と服従、多数派と少数派の集団間ポリティクスなどを念頭においたものであることが明らかになった。その内実をふまえた再展開の可能性に加えて、人種関係に階層やジェンダーがどう交錯するか、それに支配的表象がどんな作用を及ぼすかといったテーマ、および、公共の場に社会学をいかに位置づけるかなどが今後の課題となった。

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