2023 年 108 巻 p. 53-73
本稿の目的は、家庭における子どもへの性教育の実践状況に家庭環境が及ぼす影響を検討することである。「二〇二一年全国おうち性教育実態調査」のデータを用いて、(一)子どもに性に関することがらを教えた経験、(二)子どもの性に関して困った経験、(三)子どもの性に関する相談相手の有無の三つの従属変数を用いた分析の結果、主に次のことが明らかになった。第一に、家庭での性教育の実践状況は、父親の社会経済的地位により異なる。父親が非正規雇用・無職などの不安定な働き方の家庭では、家庭における子どもへの性教育を実践していない傾向にあった。第二に、母親の教育期待は家庭での性教育の実践状況・内容に影響を及ぼす。教育期待の高い母親は家庭と学校の両者で性教育を行うべきだと考える傾向にある。また、教育期待の低い母親は「避妊の方法」「デートDV」など、より個人の性行動に直結する内容を教えている傾向にある。第三に、シングルマザーや夫婦関係満足度が低い母親、専業主婦は、子どもの性に関することを誰にも相談できない孤立状態に陥りやすい。家庭での性教育の実践に際しては、夫婦間での連携が重要であることが示唆された。