2015 年 96 巻 p. 139-164
本稿は、多文化社会における女性若者ムスリムが、複数の社会的期待に直面する中で、どのように自身のアイデンティティを構築し、社会への参加を実現しているのかについて、イギリスのコベントリー地区のインタビュー調査に基づき描くものである。分析の結果は、インフォーマントが、イスラームを遵守すべき最も重要な規範として引き受ける一方で、アイデンティティを分節・(再)接合しながら、イスラーム、イギリス社会、コミュニティや家族、そして多様な志向や背景を有する友人たちと関係を築いていることを示している。こうしたアイデンティティ管理、そして、それを通じた社会への統合に寄与しているのが、彼女たちが生きる多文化社会という現実である。多文化社会が、アイデンティティの多様化を要請し、それを管理する自律性を発展させることにより、女性若者ムスリムがそうした社会に適応することを可能にしている。それは、文化と宗教の区別やスカーフの着用をめぐる彼女たちの態度に看取することができる。