人間環境学研究
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原著
移行期における甘えの重要性
「可能領域」としての機能・役割
大道 えりつ
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2013 年 11 巻 2 号 p. 133-150

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抄録

発達的な変化は、個体の(遺伝的)な要因か環境的要因によって生じるのか、現代に至るまで数多くの論争がなされてきた。しかし、発達的な変化をこのような個体か環境かという二者択一的に捉えられるほど単純なものではなく、Sameroff(2009)のtransactional modelが示すように、個体と環境との相互作用が発達的な変化を作り出すという考え方が主流になっているが、変化していくプロセスについての説明が行われていない。変化のプロセスを見ているPiaget(1952)のモデルは、個体がどのように変化を作り出すのを説明しているが、環境の役割について多く述べられていない。本稿は、発達における状態変化を環境の役割という視点から、人はどのように新しい対人環境や社会環境と適合するのか、その変化のプロセスやメカニズムについて検討した。ダイナミック・システムズアプローチや社会文化的理論などでみられる発達の移行メカニズムに関する発達心理学の主要理論を概観し、発達における移行状態、「できるようになる」ための中間的な段階が変化を作り出す重要な役割を果していることが示唆された。このような知見をもとに、社会適応の過程においてもこのような中間的な段階、本稿で言う「可能領域」という移行前と移行後の二つの状態や機能の共存を環境も個体も許している状態が存在し、それが移行を容易にしているとする理論を構築した。本稿ではまたこのような「可能領域」が日本文化において特異的に存在しているとされてきた、「甘え」の機能的側面であると考え、家から学校生活への移行などの移行場面において観察される行動について議論している。発達的場面におけるモデルの適合を検討するため、幼稚園や保育園での先生との関わりにおける、子どもの社会的ルールの獲得過程を公刊された論文のメタ分析によって行っている。その結果、新しい行動や他者との接し方が定着するまでの間には、種々の行動が教師の見守る姿勢(戦略的非介入)によって猶予されるなど、新しい行動の試し期間として行動の成否よりもそれらを使って良いという「可能期間・領域」としての事象が生じていることが明らかとなった。個体が環境との相互作用によって変化するというこれまでの発達理論に、環境の視点から移行過程に着目するモデルが加わることによって、AからBの状態への変化の間に、AもBも許される期間が存在し、それが個体の環境への適応度を高めている可能性が示唆された。今後このモデルに従って、状態変化の過程を詳細に検討することにより、人間の環境との相互作用過程についての議論が進むものと考える。

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© 2013 人間環境学研究会
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