2016 年 14 巻 2 号 p. 127-136
本研究は、乳児の泣き声を若者が聞いた場合どのように感じるか調査することを目的とし、女子大学生および大学院生を対象に泣き声を刺激とした聴取実験を行った。音声刺激は生後0か月から12か月の乳児を縦断的に観察して得られた泣き声を用いた。実験の結果、泣き声に対する嫌悪感は音圧など音の強さにかかわる指標が影響していることが判明した。また、泣き声に対する嫌悪感は乳児の機嫌の悪さとは必ずしも一致しなかった。乳児初期の泣き声と比べて乳児後期に観察される泣き声のほうが実験参加者に与える嫌悪感の度合いは高くなる傾向がみられた。実験参加者は乳児が表出するすべての泣き声に嫌悪感を抱くわけではなく、一部の甘え泣きに対しては好感をもつことが判明した。本研究の結果は、乳児の泣き声が不快であるというこれまでの前提に立っているのとは異なり、泣き声によっては聞き手にポジティブな感情をもたらし、ベビーシェマとして機能している可能性を示したといえる。