人間環境学研究
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論文
ERPと日本的経営の整合性
岡部 曜子吉原 英樹横田 斉司
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2008 年 6 巻 1 号 p. 1_79-1_87

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抄録

本論は、ERP(統合業務パッケージソフトウェア)に焦点をあてて、情報技術と日本的経営との整合性について考察するものである。ERPは、経営の効率化を目指して、人事、財務、管理会計、生産、調達、在庫、販売などの業務データを統括的に管理する情報システムを構築するためのソフトウエアである。ERPを導入することにより、業務処理コストの削減、リアルタイムでの業務内容の把握、データの一元管理などが可能となる。ERPを導入する日本企業が急増しているが、導入・維持コストに見合うだけの成果が上がらないケースも多い。これは一つには、ERPが経営とくに業務にもたらす影響について日本の経営者が十分に理解していないことに原因がある。ERPとは本来、欧米企業のベストプラクティスをモデルとした汎用ソフトであり、業務をグローバル標準化するものである。一方、日本的経営の大きな特徴は、ヒトや情報などの経営資源が長期にわたって企業内に蓄積され、生産などの業務が企業独自のものとして洗練され、その企業独自的な業務が競争優位の源泉となっている点にある。このように、日本的経営とERPの基本的思想(業務の標準化)とは相反するのである。世界中でERPの導入が進む中、日本企業は、ERPによる経営のグローバル標準化を目指すべきか、あるいは日本的経営のメリットを保持すべきかの難しい選択に迫られている。実際、過去数年間に製薬、電気、石油等の企業で国際的なM & Aが行われているが、合併を行う企業同士は同一のERPシステムを使い、業務が標準化されていることが多い。これらの企業では、競争優位の決定要因として、競争力のある製品を生み出す製品開発力が決定的に重要であり、生産・販売などの業務の効率性はあまり重要でない。したがって、製品開発には汎用的なERPを導入せずに自社独自的な情報システムを開発して使うが、競争力の差別的・決定的な要因でない業務には企業独自的な業務システムを構築せずにERPを導入している。ERPによってシステムのコスト削減を図りながらグローバル標準経営をおし進め、国際競争力を高めるという戦略を取っているのである。経営者は、ERPの基本的思想を理解し、自らの企業の経営のあり方と適合するかどうかを慎重に検討すべきである。本論では、統計データ、インタビュー調査、関連文献などにもとづき、ERPと日本的経営の特徴を示した上で相互の整合性を議論し、日本企業におけるERPの活用の現状を明らかにしながら、日本企業に適合的なERPとはどのようなものかを提案する。ERPを取り上げた従来の研究は、情報システム論における議論がほとんどであり、日本企業の経営や組織との関連付けで議論した研究はほとんど存在しない。このような意味において本研究は今日的意義が大きいと考える。

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© 2008 人間環境学研究会
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