史学雑誌
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研究ノート
ピエトロ・レオポルド期トスカーナ大公国における土地税改革(一七七二-一七八三年)
大西 克典
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2015 年 124 巻 6 号 p. 1114-1128

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抄録

いわゆる外交革命以後、ブルボン-ハプスブルクの対立が解消した18世紀後半のイタリア半島では、ようやく訪れた政治的安定を背景にして、イタリア内外の思想家の影響を受けつつ、各国で先駆的な行財政の改革が行われたことが知られている。ピエトロ・レオポルド治世下(在位1765-1790年)のトスカーナ大公国で行われた改革もこれらの啓蒙改革の一つとされる。特にその治世前半に行われた一連の行財政改革は従来フランス重農主義を範として、富の源泉たる土地に税負担を集中させる一方で、土地所有者のみに地方行政への参加を認め、一定の地方自治を保証することで、土地所有者を中心にした社会を目指したのだと言われてきた。
しかしながら、近年の研究はレオポルド期前半に行われた改革が、土地に税負担を集中させ、土地所有者を中心にした社会を目指したと言えるほどの大きな税制上の変化を伴っていたのかを疑問視する成果を提出している。
本稿ではレオポルド期前半の土地税改革の内容を追った後、官房局文書に見出される改革前後の各機関の収支報告を用いて国家財政に占める土地税の割合が変化したか否かを検討した。
その結果、確かにこの時期に土地税の支払いを地方行政の参加要件としたことで、土地所有者による地方自治の原則が確立されている。だが、同時期に行われた土地税改革は、既存の土地税の制度整理に終始しており、こうした地方行政制度の改革に十分に対応したものではなく、国家財政は実際には関税と消費税に依存し続けていたことが明らかになった。レオポルド期の改革は、地方行政を土地所有者に委ねる一方で、財政的には都市部の商工業に依存するという構造的な歪みを生み出したのである。

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