史学雑誌
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中世前期東大寺の財政構造と鎮西米
「東大寺年中行事」 を素材として
三輪 眞嗣
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2018 年 127 巻 4 号 p. 41-66

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抄録

本稿では、「東大寺年中行事」という史料を主要な素材として、一二世紀から一三世紀にかけての東大寺の財政構造の形成過程とその特質を論じる。「東大寺年中行事」は一年間の法会・行事で配分される物品の量や受給者などを書き上げたものであり、東大寺の財政構造の全体像を検討する際に、有効な素材となる。
まず、「東大寺年中行事」の史料的分析をおこない、記載方法や内容をまとめ、寺家経営の中心にあった執行の手引書的な性格を指摘した。また記述の特徴として鎮西米の下行に関わるものであったことを明らかにした。
続いて、「東大寺年中行事」に登場する主要財源として、荘園・鎮西米・寄進田を挙げ、荘園を用途に即して分類し、鎮西米と大和国などの膝下領荘園との補完関係を指摘した。鎮西米は量的にみれば荘園には及ばないものの、法会の荘厳用途や寺内諸集団に配分される財源であり、寺院社会として重要な財源であったことを明らかにした。
さらに、鎮西米とその前身である封戸・封物との関係を検討した。一一世紀から一二世紀にかけての封物の下行量・名目と一二世紀・一三世紀末の鎮西米の下行量・名目を比較し、封物から鎮西米に移行する際に下行額は減少するが、下行名目は一致するものが多く、鎮西米が封物の代替財源として機能していたこと、一二世紀の鎮西米と一三世紀のそれとでは下行名目が限定されるが、下行額は一致しており、両者に連続性が見られることを指摘した。
また、一二世紀には東大寺での修学システムが拡充され、学生供に宛てられる供料荘園や諸法会の僧供料の寄進田などが登場した。東大寺財源の分割・多元化が進み、封物を継承した鎮西米と、特定用途に宛てられる荘園・寄進田とに分化することで、「東大寺年中行事」に見られる財政構造が形成されていくと論じた。
こうして一三世紀にかけて形成された財政構造が、政所・惣寺という二元的な組織の併存を規定すると考えられる。

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